第1章 プロローグ
ゆらゆら揺れる。
心地よいリズムは浮上しかけた意識を、再び沈め始める。
暖かくて、柔らかくて。それでもどこか安心感のある…
これは…、運ばれてる?
誰に。
しかも、体制的にお姫様抱っこ。普通に恥ずかしいという気持ちも勿論あるのだけれど…。
でも、そんな事はどうでもいい。何故だか凄く、頭が重いのだ。鈍痛が押しては引いていくのをやり過ごした処で、肌寒さを訴えた体に手近な人物で済まそうと、私を抱える相手の首に左腕を回しかけたその時、激痛で目が覚めた。
「いっ、…た…っ!?」
最早跳ね起きる程の痛み。私を抱えていた腕の中で飛び起きれば、勿論バランスを崩すわけで。それでも落とすまいと腰を落とし、地面に勢いよくこんにちはすることを免れたのは、見開いた瞳に映り込んだ“育ちすぎた蝙蝠”のおかげだった。
「っっ、!?」
突然暴れだした私に大層驚いたのだろうその蝙蝠は、私が夢にみた世界の最も好きな登場人物。幸せにしたいと何度も思った人物。幸せになって欲しいと何度も願った人物。
「セブルス…」
目の前に確かに存在するその男の姿は、稀に見たこの世界の夢では、何故だか彼は姿を見せなかった。沢山の学友(と認識しているだけで物語の登場人物ではなかったけれど)と教師。
豪華なホグワーツ城と、寮には見覚えのある自室。そこは魔法で溢れていて、確かに私はそこで生活を共にしていた。
けれど、あくまでも夢の話。
夢の話…。
あぁ、何だ…。やっと会えたのか。せめて私の夢の中でだけでも
「幸せになって…」
目頭が熱くなる。隠すように伸ばした腕。既に地面に腰を着けていたので、痛む左肩を控え目に。右腕で強く抱き寄せたセブルスの体がビクリと震えて固まった。