第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「幾ら実家と同じといえど、一人だと流石に広すぎるよね」
寂しさと、若干の恐怖から態々独り言を口に出す。取り敢えずリビングのソファに腰掛け、セブルスが運んでくれた4人分の包を開封することにした。
「これは、ダンブルドアだね」
1つだけキラキラと輝かしい包を手に取り、クスクスと笑いを洩らしながらリボンを解いて行く。中には箱と紙切れが1枚。
「───セブルスに預けた金庫の鍵は、君に初めて出会った日。君に掛けた金額じゃ。契約でも貸したわけでもなく、君に預けた命の重さじゃ。“多過ぎる”なんて事は無かろう。上手に使いなさい。───」
夏海さんの事だとは思っている。…だけど、どうしてだろう。まるで他人とは思えない。あのダンブルドアですら、私を夏海さんだと思い込んでいるのは、本当に偶然なのだろうか。
考えても仕方が無いと分かっているのに、何度も繰返してしまう。これでは私の精神が先にやられてしまうと、早々に箱へと手を掛けた。
「わぁっ!懐かしい!!」
どれも見慣れた母国のお菓子が色とりどり。箱の中に所狭しと並んでいた。チョコレートにクッキー。大袋のマドレーヌやポテチに煎餅。3本パックのお団子や、電子レンジで卵1つあれば出来るカップケーキの素まで入っていた。
どれもこれも懐かしいものばかりで、今にも小躍りしてしまいそうだった。そしてその菓子の下には更に、魔法界の業者の様だけれど、日本メーカーのお菓子専門の通販、お取り寄せカタログまで同封されていた。
これで恋しくなった時には自分で購入出来ると思うと、ダンブルドアの命令を2、3聞いてもいいと思ってしまう。が、そんな事して後悔しないとは言い切れないので、実際にはしないけどね。
…右も左も知らぬ土地と、時代と世界。安易に心を許せば、私が消えるか。或いは彼等を救う事は成し得ない。ダンブルドアの様に頭の良過ぎる相手はなるべくならしないに限る。恩人に対する考えが、これでは余りに自分勝手では無いかと思うけれど…。
借りを盾に大きな見返りを求められるなら、借りを借りだと認めない事も必要だと、私は既に知っている。義理堅さや誠実さは時に己を殺す事もあるのだ。綺麗事だけでは生きていけない。
…ごめん、アルバス。