第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「夏海、起きたまえ。」
「ん…、あれ。ふあぁ…ごめ、寝ちゃった…?」
「手当をする。起きろ」
「あ…、そか。ありがと」
いつの間にかソファで寝ていたらしい身体をヨタヨタしつつ起こすと、パサリとブランケットが落ちる。深い緑の触り心地のとても良いそれを拾い上げると、端っこに蝙蝠の刺繍が施されていて、それが何とも可愛らしかった。
「可愛いね、贈り物でしょこれ。」
最早服を脱いでいく事に、大して抵抗は無くなっていた。…別に下着になる訳じゃないし、目的が治療であるなら尚更気にする必要は無いのだけれど。
シャツを脱いで肩から診察が始まり、タンクトップを捲りあげて腹の診察。次いで足首に移る。と、そこでセブルスの手が止まった。
「……何処でやった」
眉間に深々と皺を寄せた彼の声は特段低くて、ただでさえ耳に悪いその音はゾクリと私の身体を震わせた。
「っ、なに?」
されるがまま。セブルス手が怪我の治療を施す動きだけを、その表情と共にぼんやりと眺めていただけ。視線が絡み合ったその時、ハッとして意識が戻った私は、自分の怪我がどうなっているかなんて気にしていなかった。
「ノクターン横丁でルシウスに合う前、何かあったのか」
「ルシウス…?その前にドラコに会ったけど…、うわっ、キモッ」
彼の手に乗せられた足首は見事に腫れ上がっていて、ホグワーツに着いた時に感じた違和感に合致した。
「あー。ノクターン横丁に着いたとき、暖炉から勢い良く転がり出ちゃって。多分、その時に…?」
「……はぁ」
最早返事が溜息なんだけど、今突っ込むとややこしくなりそうだし。黙っておこう。セブルスの手間を増やしたのは事実だしね。
「明後日の朝までは安静にしていろ」
ドクターストップを頂いた所で、漸く“やっちまった”と実感が湧き、ソファへ倒れ込んだ。
足首に触れられる度鈍い痛みに眉を寄せ、それが済んだ後は手首と足首にクリームが塗り込まれる。…我ながら満身創痍ではないか。
「あの部屋さ。寝室があるのに、もう1つベッドルーム…と言うか小部屋?があったよね。何でだろ。」
「あの部屋は元々、お前の部屋だ。学生時代に使っていた」
「寮があるのに?」
「詳しくは知らん」
「さっきの大部屋とかは知らなかったの?」
「……」
「知ってたんだね。」