第2章 はじめましてと噛み合わない会話
この人達は、もう1人の私を知っている。
「マダム、もう1人の私はどんな人でしたか。」そんな風に聞いてしまえたら、どんなに良いだろう。
でも私には、問いかける勇気は無かった。涙を溜めて安堵する彼女達に「違います」と言ってはいけない気がした。そしてダンブルドアがそうしたように、“記憶が無い”と振る舞う事が私の使命というか…、責任と言うか。今の私に出来る、唯一の事のように思えた。
「あら、今日は女の子なのね。」
バストサイズを図っている時に唐突に発せられた言葉がよく分からなくて、首を傾げてしまうと、すぐ様「ちゃんと立って!」と叱られて、慌ててぴしっと案山子になるのだ。
「下着も買うなら、女の子の方が都合が良いわね。今のサイズが同じだから、男性服は前のデータを使っても良いかしら?」
「え、ええ。マダムを信用してますし、お任せ致しますよ。」
何が何だか全く分からないが、夏海さんは男にも女にもなれるのか?…いや、まさか。なら、…双子とか?いや、それこそ有り得ない。男女の一卵性双生児は有り得なくは無いが、生まれ付き身体が小さいとか特徴が出る筈。それに、流石に気付くだろう。
考えても考えても埒が明かないどころか、謎が謎を呼んでいる。
「……あの子」
「はい?」
「あ、いや。何でもないよ、ごめんねぇ。どうも最近、独り言が増えちゃって!さ、御終い!お代はいつも通り、仕上がったらね!」
え。その場の受け渡しじゃないのか!…参った、これはどう頑張っても、セブルスのキャビネットにある服借りなきゃ。…多分あれ、夏海さんのなんだろうなぁ。
そして多分、既に何度か借りてるんだろうなぁ。今日の服とか。ダンブルドアとの面談とはまた違う服だし。中世的なデザインだし。
ごめんね、夏海さん。
─チリンチリン─
「おや、いらっしゃ……。あらあら、スネイプ先生!」
「あ、セブルス。丁度終わったよ。」
「そうか。マダムマルキン、もう1人頼みたい。」
「っ、それじゃぁ!」
「…以前と同じ寸法で構わない。5着程受け取りは夏海の分も合わせて、取りにこさせよう。」
何だろう、なんの話だろうか。兎に角、マダムマルキンが喜んでいるのは目に見えて分かる。でも、誰の事かも分からなくて…。何だか複雑。