第2章 はじめましてと噛み合わない会話
カリカリ─カリ──カリカリカリ──
「うーん。出してあげたいのは山々なんだけどさぁ、流石に街中でって駄目だと思うんだよねぇ。本当ゴメンなんだけど、ホグワーツについたら、出してあげるから。もう少し我慢してくれるかな…?」
鴉と会話が出来るとは思っていない。でも、何故だかこの子は放っておけなくて。勿論、梟の様に懐いてくれるとも思っていないので、“出してあげる”とは“解放してあげる”の事で、自然に返すという意味で言っている。
気付けば籠を噛んだり爪で引っ掻くカリカリ音が止んでいて、まさかと思ったけれど、それこそまさかだと、マダムマルキンの洋装店へ急ぐ事にした。
「ごめんください」
「あら、…あらあらっ!えっと…」
「マルキンさんも、私をご存じのようですね」
「…ええ。ごめんなさいね、ダンブルドアから記憶が無いと聞いたのだけれど…。」
「お気遣い頂き感謝します。また仲良くして下さい。」
マダムの様子に察した私は自らこの話題を口にして、瞬間的に後悔したのだけれど…。「“また”仲良くして下さい」と告げた時の彼女の表情が、とても嬉しそうに目に涙を溜めて笑うから。
“記憶が無い”として生きていく事は、もう1人の私を知る人達にとって決して悪い事ではなさそうだと、今は受け止めておく事にする。
「それでっ!今日はどうしたのかしら?」
「あぁ、下着と服を何着か。マダムのセンスにお任せしたいのですが。」
「男の子?女の子?」
「…え?」
え、久し振りに聞かれたよ。性別。…確かに中世的な服装をセブルスに出されて、ローブも着込んでるけど、髪は長いしメイクもしてるんだけどなぁ。
「あっ!…いえ、ごめんなさい。以前はオーダーの度に性別もバラバラだったの。」
「……あははっ!そうなんですね!ふふっ、そうですね…。では女性ものを1着。後は全て男性ものでお願いします。下着は5着ずつ。」
夏海さん、何者なの。まじで。性別不詳になってんだけど!…でも、ちょっと私に似てるなぁ。そういう所。なんて思い耽ってると、吃驚する位の力で荷物を取り上げられ、台の上に立たされると、それはそれはテキパキと採寸し始めて服を選び出す。
「あら、ちっともサイズが変わってないのね。羨ましいわっ」