第2章 はじめましてと噛み合わない会話
数人程野次馬が集る中で尚も店主は怒りを露に、その籠を乱暴に商人らしき人物へ突き返していた。
「鴉なんて、家には必要ない!珍しい梟がいると言ったから、買い取ると言ったんだ!ゴミを漁る様なコレの何処が梟だ!」
フードを深く被った商人は、一言も言葉を発することは無く、その押しやられた籠を見下ろして立ち竦んでいた。
「そちらの鴉は、手紙を配達してくれるのですか?」
「…なんだお前っ」
「あぁ、いえ。“珍しい梟”と言うのが、本当にその鴉ならもしやと思いまして。」
「そうだとしても、鴉なんかを態々梟に使う奴が何処にいる!汚らしい!使い道もない、処分するしか無いような物を持ち込むな!」
店主の怒りは収まらないようで、とうとう商人は籠を手に踵を返す。
「あ、待って。その子、私に譲って下さいませんか?」
ピタリと足を止めた商人は、ゆっくりと此方を振り返る。何故かその動作にゾクリと何かが身体を走ったのだけれど、今はそんな事を気にしている場合では無い。
「もし本当にその子が梟と同じ事が出来るなら、鴉は賢い動物です。きっと私の役にたってくれる筈。譲って下さい。」
途端にオロオロしだした店主は、漸く野次馬の存在に気付いたらしく、大きな舌打ちと「勝手にしろ!」という言葉を捨て台詞に店内へと消えていった。
面白味が消えた野次馬達は、それを合図に蜘蛛の子を散らし、数分も経てばそこは嘘のように、私と商人だけが取り残されていた。
「あの…」
「1ガリオン」
「えっ?」
「1ガリオンでいい」
「いや、ダメです。正規の値段を仰って下さい。待って、今用意するから…、…あれ?」
ローブのポケットからガリオン金貨の入った袋を取り出そうと、目を逸らした一瞬の事だった。バシッと音をたてて姿を姿を消したのだ。籠だけを残して。
何だか不気味に感じて来たものの、籠の中の鴉は驚く程に綺麗な毛並みで、ガラス玉の様な澄んだ目をしていた。
「わぁー。美人さんだぁ」
棒読みの賞賛の声も届く相手は、籠の中の鳥。1羽だけだった。