第1章 プロローグ
持ち込み禁止の立て看板を堂々とスルーし、自販機で用意した飲み物と共に最後列の真ん中を陣取る3人。
MGの手には本来絶対禁止の廃棄処分になったポップコーンが握られている。
予告前映像が流れるシアター内で、左に本日の相方、同期の山嵜君。右に賀藤MGが私を挟んで座っていた。
「あれ、これ映写は何方か居るんですか?」
「尾形さんに任せてきた。俺はこの後も仕事あるから、帰りは尾形さんに送ってもらいな。」
「俺送っていきますよ?」
「…もう話はつけたから、大丈夫。」
元々男の子の様に育ってきた私なので、こんな風に心配されるのは女性らしさを身に纏う歳になった今でも、実は慣れないし、本当のところこっぱずかしい。
「もー、賀藤さんたら。別に平気だって。
それに、何かと言っては送ってもらってばかりで尾形さんにも申し訳な……っ!」
見上げた小窓から尾形さんが手を振っている姿を見付け、手を振り返そうと話ながら体をひねった瞬間“俺が心配なの。…こんな時間に、歩いて帰るなよ。”と耳打ちされて、思わず言葉を詰まらせてしまった。
なんだ…?何か今日、いつにも増して優しくない?いつにも増して、距離近くない?あれ。ヤバイ。心臓煩い…。そんな返し、ずるい…!
熱がこもっていく顔を隠すように照明が落ち、予告映像が始まる。
た、助かった…。
こっそり安堵していると、今度は左から声がかかる。僅かにイスが軋むと、身を寄せて同期が話始めた。
「…あ、そうだ。石田さん、前にご飯行ったお店に新商品出たんだけど、良かったらまた行こうよ。」
「え、お好み焼き屋さん?」
「そう。何か3種類ぐらい増えて、お酒も少し種類増えたって。石田さんの好きなウイスキーも増えたんだけど……えーとイチローだっけ?」
「っ、イチローズモルト!?」
「あ、それかな。リニューアルキャンペーンで結構安くなってるし、近々どうかな?」
「うそっ!行きた「石田うるさい。」……ご、ごめんなさい。…ごめん山嵜君また後で話そ?」
本来なら勿論シアター内で話し込んだりはしないのだけれど、他にお客さんも居ないし、気心知れた2人と言うのもあり、ついつい話し込んで怒られてしまった。
私達には上映会でも、MG達は仕事も兼ねてるものね。邪魔はしちゃダメだと、映画に集中することにした。