第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「つまり君は、別世界の未来から来たと言う事かね?」
「はい」
「“ハリー・ポッター”。…彼に纏わる事件を知っていると。」
「…はい。」
「そして、この世界で守りたい人が居るとな?」
「はい。」
「夏海…。まだワシに、何か言いたい事があるのではないのかね?」
「…彼がホグワーツに居る間、私も此処で働かせて下さい。」
テーブルを挟んで向こうにダンブルドア。此方にはセブルスと2人、ティーカップを優雅に傾ける校長とは逆に、背筋を伸ばして微動だにしない私はガチガチに緊張していた。
「ふむ。君が守りたいのは、彼だけかね?」
「いいえ」
「ほう。」
「でも、命を懸けて彼を“見ている人達”を守る事は、彼を守るのと同じでしょう?」
「…夏海、キミは…。」
「いつか元の世界へ戻るかも知れない。何も出来ないかもしれない。…でも、せめてこの世界に居る間に何かを救えるなら、知らん顔で過すなんて出来ない。」
「君がこれから多くの別れと、後悔を背負うとしてもかね。」
「そうですね。想像以上の困難に見舞われるでしょう。それでも。やっぱり私は、…“手”を離したくないんです。」
低体温の私と同じぐらいしかなかった彼の手の温度。不器用に優しく握り返す指と、僅かにタコのあるセブルスの掌。
頬から伝わった、暖かなダンブルドアのシワシワの手。
夢か現実かすら定かでは無いけれど。あの日、MGに重なって現れたトム・リドルの腕。
「……っ!?」
隣に座るセブルスの手に、そっと自分の掌を重ねる。
「私はこの世界の人間ではないから、魔法は使えないでしょう。それでも、雑用でもいいから。この城で、働かせて下さい。」
ソファに腰掛けたまま深々と頭を下げた時、僅かにセブルスの手が反応した。思わずビクリと体が揺れると、一方的に重ねていただけの掌からセブルスの手が離れた。
途端、切ない様な苦しい様な。苦しくなった胸の内を悟られないように。何て、考え出した時だった。
掌に再び触れた感触。体温。力強く握られる私の掌と、力強く絡められる指。
目頭が熱くなる。そろそろと上げた視線の先で、優しく微笑むダンブルドアの顔が目に映る。
「君の頼みを受け入れる様にと、既にワシらは約束しておったのじゃ。」
「…え?」