第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「昨日は…」
「んー?」
「………すまなかった」
「…は?」
「最後までは、…していない。」
「ぇ、あ。…うん、ありがとう?」
開け放たれたままの扉の向こうに、ベッドに腰掛けたままのセブルスが俯いている。
「とゆうか、何です?急に。昨日とキャラ変ってません?」
「……もういい。」
「あー、そこで拗ねる。まぁいいですけどね。
……あのさ。この後、校長と話してさ。どう転ぶか分からないけど、セブルスに拾って貰って、手当してもらえたのは本当に助かったし、良かったと思ってる。…ちょっと怖かったけど。
だから、私も今の内にちゃんと言わせて。」
フィルターを燃やし掛けている煙草を、灰皿に押付けて息を吐く。白い煙が換気口の方へ流るのを横目に見送って、扉を潜った。
「助けてくれて、本当にありがとう。貴方以外に拾われたらこうはいかなかったかもしれない。下手したら、気絶したまま森の動物に食べられてたかも知れない。
…だから。本当に、ありがとう御座いました!」
深々と頭を下げて礼を伝えると、暫しの沈黙を破ってセブルスが立ち上がる。
「校長は、お前を悪い様にはしない筈だ」
「夏海。」
「…………。」
「私には名前で呼べって言っておいて、貴方は“お前”なんて。不公平でしょ?」
クスリと態とらしく笑ってみせれば、ほんの一瞬呆けた後に、悪どい顔で笑うセブルスに目を奪われた。この時が最後になっても、セブルスとはこれはこれでいい思い出をつくれた。私の願い通りにならなくても。異端者として消されても。いい土産が出来たね。
「ふふっ。……あぁ、もうこんな時間か。10分前だし、そろそろ行こう。」
「…そうですな」
フワリとローブを広げ、先を促すセブルスに駆け寄り、腕を取る。
「…っ」
「今だけ。」
ほら。不器用な彼はこんなにも優しく、私の手を握り返してくれる。だから、ねぇ。今だけは、私を一人にしないで。