第2章 はじめましてと噛み合わない会話
右足首の怪我から診察を始める教授に、内心「脛毛大丈夫かな」とか、「仕事上がりで足臭わないかな」とか。夢も欠けらも無い、現実的な事ばかりが頭を占めていた。
「っ…」
そんな風に油断していると、時折痛みが走ったり、擽ったかったりとで漏れそうになる声を必死に堪えながら向けた横目に、鬱血した打撲痕をハッキリと認識できた。
「…んっ?スネイプ教授、そちらは大丈夫です。痛みも特にな………に、それ…。」
折角スタンダードな仏頂面に戻った教授の眉間に、再び深々と皺が刻まれ、痛みの無い左足首をまじまじと凝視している。視線を下げた先、私の足首にはくっきりとした指の痕が浮き上がっていた。
最早ホラーなその痕を、鳥肌を立てながら凝視している私へ無言で立ち上がった彼が一言。
「…脱げ。」
言葉が足りなさ過ぎて理解出来ず、正に“ポカン”としていると、痺れを切らしたのかブラウスの釦を外し始める。
「ちょ、ちょちょっ、せっ…教授!」
「セブルス」
「は?」
「セブルスと呼べ。気持ち悪い。」
「きっ(もち悪いってなんだ)、~~脱がすなぁっ!」
右腕と左足だけで必死に踠くものの、こうして話しながらでもスルスルと脱がしていくセブルスに思わず張上げた声。僅かに見開いた瞳と漸く目が合った時には、既にブラウスは申し訳程度に左腕でぶら下がっている状態だった。
「何があった」
「何が(あった)!?」
顕になった下着を必死に隠して叫べば、ため息が一つ。何こいつ、どんな情緒なのっ!?普通に怖いんだけど!!!
「手首にロープ痕。足首にも拘束痕。左肩は打撲。右足首が捻挫。腹部に皮下出血と右肩口に歯型。
誰にやられたんだ。」
つらつらと怪我の箇所を上げていくセブルス。全然気付かなかった。いつの間にこんな怪我ばかりしていたのだろう。しかも聞いた感じ、相手がいるっぽいし。
だけど残念ながら身に覚えがないので、どうする事も出来ない。
「えと、…すいません。全く身に覚えが無さ過ぎて。…分からないです。」
「………はぁ」
親指と人差し指で眉間を摘みながら吐き出される、本日何度目かの溜息。
「ごめんだけど、本当わかんないし……。」
自分の体の事だけど、分からないものは分からないし、どうにも出来なくて。若干ムッとしてしまうと、その様子を見たセブルスが再び溜息を着いて顔を寄せる。
