第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「…死んだ事になっていたんだぞ。」
「んぇ…?」
情けない声しか出ないのだが、今は呼吸を整えるのに必死だ。見上げた教授の表情が、スタンドライトに照らされる。
なんて…、なんて顔をしているの。今日初めて会った私に向ける表情では無い顔で。心を閉ざし、殺し続けた彼がこんな表情をリリー以外の事で見せるだなんて…。
酸欠でまわらなかった頭が徐々にクリアになってくると、教授の言葉の意味をグルグルと考え始める。
「っ、しんだ…?…え?」
「あの日、リリー…。…っ、…あの方が敗れた日だ。死喰い人達は口を揃えて“夏海・石田は死んだ”と言っていた。
騎士団、魔法省、死喰い人。幾ら探しても、見付かった物は大量の血。服の残骸とお前の杖、そしてそのピアスだけだ。
…死んだのだと、思っていた。」
一筋分の涙を静かに零し、ポスンと胸元に額を落とす彼に、ただただ“ごめん”と言いたくなるのだが、残念ながらそんな記憶も無ければ、可能性もない。
何故なら私は、今日初めてこの世界に落とされ、先程初めて校長と教授に出逢った。……あれ。そう言えばこの2人、私が自己紹介する前に名前を呼ばなかったか?
「あの、私…。教授にも校長にも、今日初めてお会いしましたし、この世界に来たのも初めてです。察するに、同姓同名の別の方かと思われますが…。」
こんな顔で生きていた事を安堵している相手に、別人だなんて言うのは心苦しい。それでも、嘘を付けば更に彼を傷付ける事になる。……というか教授、リリー以外の事でもこんなに感情をさらけ出せるのね。正直意外だった。そして羨ましい。
「っ、何を……あぁ…。そうか、記憶が…。」
後半につれ独り言の様に呟き、数秒程黙り込む。次第に吹っ切れた様な、理解した様な。僅かにスッキリした顔をした彼と目が合う。
「…大丈夫ですか?」
未だに見下ろされたままだった体勢を整えようと、声を掛けつつ右腕を軸に上体を起こしかけた所で、セブルスの掌が弱々しく私の頬を包んだ。
「名は知っているのだろう。ホグワーツで魔法薬学を教えている。…今はそれでいい。………傷を見せろ。」