第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「あの、私…。夢を、見ていたんです。そう思っていた。」
この部屋に来るまでの道中、夢だと言い聞かせていたものの、他国特有の独特な香り。現在の日本とは違った気温。セブルスの体温。薬品の香り。呼吸音。
ホグワーツ城に入れば、微かな埃の臭い。響く足音。抱えられた腕の感触。セブルスが歩く時の揺れ。動くガーゴイル像の振動。
そして今、頂いたミルクティを飲み込む感覚。食道を通る温かな水温。……これはもう…。
「…どうしよう。多分これ、夢じゃないですよね。」
何もかもがリアルすぎる。何より、ハリポタの映画で寝る訳がないし、上司の隣でこれ程長い夢を見れる様な睡眠を取れるはずがない。
「答えは既に出ている様じゃの」
ダンブルドアはそう言って微笑むと、フワリと私の頬に手を添えた。シワシワの“おじいちゃん”の手。とても温かくて柔らかい、優しい手だった。
「……ダンブルドア校長、私に仕事を下さい。」
「勿論じゃ。
さて、どうやら彼方此方怪我をしているようじゃ。今日はもうゆっくり休むといい。…そうじゃの。明日、お茶でもしながらこれからの事を決めるとしよう。それ迄は…。
セブルス、君に全てを任せよう。」
触れていたダンブルドア校長の手がゆっくりと離れ、教授に視線が移ると、返事もせずに立ち上がった。流れる様にわたしを抱き抱えようとする彼に、今度はしっかりと手を突っぱねて拒否を示す。
「あ、あの。スネイプ教授…。その、夢だと思って居たのでご好意に甘えてしまいましたが、その。大丈夫です。1人で歩けますので…。」
そう言って自分で立ち上がろうと足に力を移せば、右足に鋭い痛みが走った。思わず離れかけたソファに尻餅を着くと、脈を打つように痛みが腰の方まで走っていく様がよく分かった。
「その様子では、日が暮れますな。」
嘲る様な言葉がほんの少し、寂しくて。この世界に関われたら嫌味も全て愛せると豪語していた過去の自分が恥ずかしかった。
現実はこんなにも、不安と虚しさでいっぱいだ。
大人しく教授に抱き上げられ校長室を出ると、多くの絵画に声を掛けられる中、長く薄暗い地下室へと連れられた。
……っあれ…?ちょっと待てよ。
じゃ、あのキスも“夢じゃなかった”って、こと…?