第24章 (日)夜道の怪
そこには誰も、何もいなかった。
「…なんだ…」
一気に肩の力が抜けて、溜息とともにかすれた言葉が溢れた。肩から荷物がずり落ちる。
それを肩にかけ直しながらふと、地面に黒く広がった滲みに気付いた。
水?
「おかえりなさい」
「ひゃっ!!」
突然声をかけられて私は飛び退った。落ち着きかけた心臓がまた大きく跳ねて飛び出しそう。誰?
しかしそこにあった姿は。
「秋津…」
「何をそんなに驚いているんです」
「……や、」
何でもない、と言いたかったが何でもなくないとも言いたくて、せめぎ合った言葉は縺れたまま出てこなかった。
迎えに来てくれたのだろうか。寒い、と呟く彼は濃く渋い緑の着物の上に黒いウールのコートを着て、マフラーの中からもごもごと口を動かしていたけれど。
その口から、白い息はもれていない。
「…秋津、今来たの?」
「ええ、ここいらは闇くて危ないですから、何かある前にとね。これでも急いで来てあげたんですから、有難いと思いなさい」
気づいたらすぐ側に居た。
こんなに目の前にいたのに。近付いてくる足音ひとつ、遠くから近付いてくる人影のひとつも見えなかったような。
?
「こう寒いと一人で歩くのも淋しいでしょう。一緒に帰りましょうね」
唇端を上げて微笑んだ顔に背筋が少しひやりとして、金色の双眸に見取られた感覚がした。
20131210
(弊社の祖国は得体が知れない妖怪の類となっております。
国であるという事を考えるとぞわぞわする)