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【APH】本田菊夢 短~中編集

第24章 (日)夜道の怪



暗い夜道を歩いていた時のことだった。
昼は緑の多い道でも夜は塗りつぶされたように真っ暗な闇だ。所々ぽつんぽつんと街灯が頼りなげに下を向いていて、狭く道を照らしている。

冷たい空気に白い息を吐いて帰路を急いでいると、ひた、と後ろで足音が聞こえた気がして、何となく背後に注意を傾けた。

なんだろう。自分の足音に紛れてよく聞こえない。
足音のような気がしたけど足音じゃないような気もする。裸足でアスファルトを歩いているような。少し水気のある音のような。
乾いているような。
軽いような重いような。

「………」

わからない。
恐怖を感じる間はなかった。なんだろう変なの、とそれだけ思って、また息を吐いて空を少し見上げてみる。

今日は星が少ない。月も見えない。新月だったか、それとももうとっくに沈んでしまったのか。山の稜線が空よりも尚更濃い闇を孕んでいて、何か大きな生き物のようだ。
不意に自分がどこにいるのかわからなくなって、迷子の子供のような心細さが胸の内を浸した。

早く帰らなきゃな、と空から視線を戻したその時だった。

「っ…」

不意に足がもつれて歩調が乱れた。蹴躓いたかと思った瞬間、おそろしく重たいぬるりとした空気が背中から。
ふらついた私の身体の真ん中を突き抜けていって。
喉の奥から何かせり上がるような感覚と、背後になにか大きなものの気配。大きな狼。大きな熊。大きな鹿。烏。鷹。馬。虎。いや。
まるで背中に目があるように、暗闇に光る大きな金色の双眼がじっと私の背中を睨んでいるのが感じ取れる。

「……は、」

ない。ないない。
荒唐無稽だ。頭の中と心とで何度も唱えたが、心は正直なもので、動悸は一気に上がっていた。

暗闇を無意識に怖がっているだけで、誰もいないのかもしれない。誰かいたとしてもきっと人だ。それか寝床に帰る猫か野良犬か狐か兎か何かの動物だ。
私は何を考えているのか、どうせ思いつくなら非日常的なものじゃなく日常的にありふれた可能性のあるものを思いつきなさいよ。

さりげなく。さりげなく振り返ろう。どきどきする。走った後みたいだ。
さり気なく振り返ってそして、

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