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【APH】本田菊夢 短~中編集

第23章 (日)瑞穂ノ国 (史実寄)



そう言われてしまうと言い難い。期待する視線が思考の邪魔をする。頭の中にはいくつもの単語が浮かんだが総てが間違っているように感じてしまうせいかすぐに紛れて消えていいって。

ざらざらと答えの候補をかき回した私は、さっきの秋津の言葉を反芻して考えた上で、一番ずっしりとしたものを手にして答えた。

「人、かな」

単純明快な答え。

「正解です。ほっとしました」

「よかった」

口元を綻ばせた秋津の手が、軽く私の頭を撫でた。その温度は低い。
温度?体温なんていうものが、国たる彼にあるのだろうか。冷たい手は、一体何を意味しているか。

「国を動かすのは金でもなく、ましてや外国でもなく、私の地に住まうあなた方国民です。国民は、そして貴女は私の肉。千切れでもしたらひとたまりもなく痛い。私は国であって国民ではありません」

「そうね」

「しかし、私にだって意思があるのはわかりますでしょう。こうしたいだとか、ああしたいだとか、これはいやだとか、国民方に逆らえはしないものの何故だか個人としての感情のようなものはあるわけです」

「うん。意思がなければ、ずけずけものを言ったり叱ってきたり叩いたり小突いたりしないよね」

「言い方が気に入りませんがそういうことですね。……私の国は国民が動かす。それは神武天皇が即位されてからずっとずっと続いてきたことです。私の身體を生みしめた神の血をひく天皇陛下のもとに、その子である国民、あなた方がいる」

話が古代を巻き込んで一気に壮大になる。

しかし壮大であるのは紛れもなく事実だ。秋津は、日本という国は、全世界中190カ国余りの国の中で、唯一天皇制を保つ国。神武天皇から始まり数多の歴史を経て二千六百年もの刻が経つ今でも、その血は途絶えていない。
その事実に妙な高揚感を感じる私も、日本人だ。


「ですが、人の起こすことですから、あなたもご存知の通りやむを得ない事態に陥ることもありました。武士に政治を取って代わられ、戦争で国民を失い、私の肉は幾度もえぐれて手足を失い、嫌なことも良いこともたくさんあった」

儚げに俯いた秋津の、人と同じほどのその頭の中に、どれほどの歴史や亡くなっていった人たちの想いがこもっているのだろう。私は何も声をかけられずに、ただ心配そうに秋津を見るしか無かった。

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