第22章 (黒日)とある酔っぱらいの罪状
「ただいm…うえ」
家のドアを開けて玄関に倒れ込む。ああやっと自宅に帰ってきた。
足の力は完全に抜け、冷たいフローリングに額をつけて息を吐いて、身体の熱を逃がすように俯せになった。久しぶりの飲み会だからってあんなに飲むんじゃなかった。
夜風に当たってもまだゆらゆらと揺れる思考は、まるで揺りかごのように確実に迅速に私の眠気を誘っていた。
お父さんかお母さんか、誰か起きてないかなと思っていると。
遠くからきしきしと足音がして、お母さんだと思った。そのまま顔を上げずに片手を伸ばす。
「おかぁさ…ごめん、ベッドまでヒッチハイク頼む…」
「………」
返事がなかった。しかしすぐそこにいるはずだ。
もしや怒っているのか、と思い、弁明しようと僅かに顔を上げてみれば、視界に真っ白い足袋。
……足袋?
「母でなくて悪かったですね」
疑問に思うと同時に低い声が頭上から降り、伸ばした私の手に触れる体温。優しく温かいこの手は、男の人の。
「!?」
「酒臭い。随分飲んだようで」
「なっなんで菊が私の家に」
「貴女、自宅と私の家間違えてどうするんですか…」
「あり?」
見回してみればそこは確かに菊の家。何やってんだ私は。入口の門からして私の家と違うのに、何故気づかなかったのか。
「全く仕様のない…」
呆れた声と同時に菊の腕が伸ばされ、横抱きに抱え上げられた。「なぜ帰る家を間違えたか」に全思考を集中させていた私は瞬く。
まさか絶賛酔っ払い中の私を介抱してくださる心持ちなのか。
「このイケメンっ」
「はあ?」
軽々持ち上げる菊。しかめ面で覗き込んでくる菊の顔の近さ。揺れる黒髪。畳の匂いがする。
温かい腕の感触と、右の頬に薄い胸、心臓の音。私の心臓がどくどく言っているのは酒のせいだけではないはずだ。
「…重い?」
「重いですよ」
「そこは嘘でも軽いって言ってよ!」
「人間が軽いなんてあるわけないじゃありませんか」
何言ってるんですか、とつむぐ唇さえ手が届くくらい近くにあって、私は触れようとした手を行き場もなく握った。