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【APH】本田菊夢 短~中編集

第21章 (黒日)泡沫



たぷん、と水面を叩き、私は風呂場の天井を見上げる。
夕飯を作るシミュレーションを少し頭の中でして、ゆらゆら揺れる水面を眺めて、次第に瞼が落ちてきた。

お風呂って暖かくて眠たくなるんだよね。菊は今日ずっと大人しくしていて私にちょっかい出してきたりしないし、眠気を妨げるものは何もない。
私はそのまま瞼を閉じた。


しばらくして、す、と冷気が頬を撫で、私はぴくりと眉を動かした。
夢と現の狭間にいる感覚。ぼんやりと宙に浮いた思考。
すると、浴槽の縁に頭を預け晒された首筋を何かが撫でた。意識が引っ張られ、うっすらと目を開けると。

「…おや。起きてしまいましたか」

「……んはぁっ!?きくなにやっ…ひぇ!」

白いシャツ姿でこちらをにんまり眺める菊の姿に私は飛び上がった。
次いで、今の自分の状況に慌てて身体を縮め前を隠す。
湯船に浸かっていた私はもちろん全裸だ。もしかしてずっと見られていたのかと思うと一気に身体が熱くなる。

「なっなにやっなにやって…!!」

「残念。絶景でしたのに」

「何やってんの菊!!!」

「あまりに静かなものですから逆上せてやしないかと見に来たんですよ。怒られる筋合いはありませんね」

「じゃあまず入る前に声かけてよ!」

「それは失礼」

「ていうか早く出てって!」

「………」

ぎゅっと身体を縮める私を見て菊は微笑んだままだ。私はその美しい顔を睨みつける。
全く信じられない。乙女の湯浴みに堂々と入ってくるなんて信じられない!

微笑んだままの菊がじれったくて、早く、と急かそうとすると、菊は腕を伸ばしてお湯の中に腕を入れた。捲ってもいない長袖のシャツが濡れる。

「え…」

「細いですねぇ」

膝を抱える私の手に、水中で触れる菊。
やわやわと撫で、私は困惑して黙り込んだ。指が絡まる。

「菊、シャツ濡れてる」

「どうせ洗濯するのです。構やしません」

菊の手は膝を撫で、腕を擦り、肩を撫で上げた。
……、何か、気分が。

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