第1章 【織田軍】プロローグ/盃に月を映せば【丹羽長秀】
空を見上げると真ん丸のお月様が太陽の隠れた世界に輝いていた。
『…綺麗。』
夕食の片付けをおてつだいしてから、お風呂を頂いたものの、気持ちよすぎて長く浸かったせいで少し逆上せてしまった。
夜風はまだ暖かさを纏っているものの、今の私には心地良い。
ぼんやりと夜の闇に身を委ねていると、
「おい。あんた、こんなところで何をしている?」
と知った声が真後ろから聞こえた。
驚いて振り向くと、
寝衣姿の長秀さんが私を見下ろしていた。
『わっ…!…え、っと、月を見ていました。』
と、片言にならない程度の辿々しさで返答しながら、改めて長秀さんをよく見ると
水滴がしたたる銀髪と、潤んだ白い肌が月光に照らされて、女の私よりも色っぽいんじゃないかというその姿に思わず見とれてしまった。
勝手にテンポをあげた自分の鼓動に気づかれないように、
『お風呂が気持ちよすぎて、少し逆上せてしまったので夜風にあたっていたんです。長秀さんも、お風呂あがりですか?』
と、矢継ぎ早に言葉を続けた。
「あぁ。夕食の席でも飽きたらず、風呂でもうるさいバカのせいで、すっかり酔いもさめちまった。」
と眉間にわずかに皺を寄せていた。
なんと言葉を返したらいいか困って、とりあえず、口元に弧を作った。
「丁度いい。あんた、この後部屋に戻って飲みなおそうと思ってたところだ。少し付き合え。酒は好きか?って飲んでるところみたことないな…。酌くらいはできるだろ。なぁ。」
酔いがさめたというわりには、長秀さんはいつもよりも饒舌だ。長秀さんからの珍しいお誘いに、些か驚きはしたけど、
(普段は近づき難いけど、今日の長秀さんとなら珍しく楽しくおしゃべりができるかも。)
なんてことを思って、
『私でよければお酌させていただきます。』
と快諾した。