第3章 【武田軍】刃傷横恋慕帖【高坂昌信/内藤昌豊】
それは、数日前のこと。
信玄さんの丸薬に使う薬草を採りにいくという昌信さんに、目的の薬草の生えやすい場所、見つけ方や見分け方を教えてもらいたくて、私も連れていって欲しいとお願いして、一緒に森に出掛けた。
「薬草と一口に言っても、城下町の薬問屋で購入するものもあれば、今日みたいに自生しているものを採りにいく場合もあるんだよ。」
『そうなんですね。そういえば、乾燥させずにそのまま使う時と干してから使う場合と、薬効に強弱がでたり、効能が少し変わるものもあると、以前教えて頂きましたね。』
「お、よく覚えてたね。流石は信玄様が選んだ優秀な薬師だ。」
柔らかく昌信さんが笑う。
『昌信さんや昌豊さんの教え方が上手なんですよ。いつか、そんな薬師になれるように頑張りますね。』
期待する薬効が発揮されるように色々試行錯誤しながら工夫するようにしているそう。
それなのに、信玄さんが丸薬を飲むのをサボるときがあるから、良いのか悪いのかなんとも言えないこともあるようで、
「まぁ、君がきてから信玄様にしっかりと丸薬を飲んでもらえるようになって、色々な意味で昌豊も僕も助かってるんだよ。」
ありがとう。と、昌信さんは、少しおどけたように片目だけ瞬きをして、笑った。
そんな綺麗な顔で微笑まれてウインクを飛ばされたら、きっと私が男でもドキドキしてしまいそう。
城下町の女の子たちが、黄色い悲鳴をあげるのも納得だ。
…半分位はきっと自覚してやってるんだろうな。
そんなところすべてをひっくるめて、きゃーきゃー騒いでいる女子もいるだろうけど、一部はちょっと勘違いしてご執心してしまう子もいるだろう……そう思うと、内心で溜息が零れた。
…いつか夜道で刺されそう。
昌信さんの華やかな雰囲気にのまれないように、
『少しでもお役に立てているなら光栄です。』
平静を装いつつ、笑みをつくった。
折角の機会だから日ごろから気になっていることを聞いてみることにした。
『あの、ちょっと気になってたんですけど、昌信さんっていつも女の子たちに囲まれて、一人ひとり優しくお相手して、大変じゃないですか?』
急にどうしたの?と、一瞬きょとんとした表情を見せて、けれども、すぐに口元に弧を創って、
「君から僕への質問なんて珍しいね。」
と悪戯っぽい視線でこちらを窺っていた。
