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【戦ブラ】Queen of the Night

第3章 【武田軍】刃傷横恋慕帖【高坂昌信/内藤昌豊】


ぱちぱちと瞬きをして、ぼんやりと浮かんだ元の世界の記憶を掻き消し、隣を歩く昌豊さんを見上げる。

昌豊さんはいつもこうして然り気無く気遣ってくれて、その優しい眼差しを見つめていると、なぜだか私の胸のうちの不穏な小波が凪ぐようだった。

ーー今は、こんなこと思い出してる場合じゃなかった。

ふと、昌豊さんの顔色がいつもよりも白いことに気づく。

『昌豊さんこそ、疲れているんじゃない?少し、顔色が良くないよ?ここ連日、いつもよりも夜遅くまで起きてたから…。』

「うん。僕は大丈夫。それよりも、僕が遅くまで起きてることを知ってるってことは、瀬那さんだって起きてるでしょう?もっと自分の体調に気を遣ってね?はい、この荷物は僕が持つよ。」

『うぅ…。』

優しい微笑みを崩さずに、やんわりと伝えられた反論の余地のない科白に、ぐうの音も出ず、に口を尖らせて唸るしかなかった。


「瀬那さんは真面目だから、もっと僕を…僕たちを頼ってくれていいんだよ?」

『…うん。ありがとう。』

昌豊さんは、存在感が無いなんて言われることが多いけれど、とても穏やかで優しくて、いつも周りのことを、軍の皆のことをよく見ている。

それだけ広い視野を持っていて、然り気無いサポートができるのは、凄いなと感心していて、心から尊敬しているところでもある。

薬については、昌信さんも詳しいけど、昌豊さんも同じくらい詳しくて、薬師として必要な知識は、二人から教わっている。少しずつ得意な分野が違うみたいだから、きっと二人で補完しあってるんだろうな。

ーー私も、二人を少しでも支えられるように、武田軍の力になれるように、もっと薬の知識も身に付けたい。

そうして時間を共有することが多いっていうのもあるけど、なにより、その人柄と雰囲気のせいか、昌豊さんは、あまり気を遣わずに一緒にいられる、私にとっての貴重な存在だ。


ふぅ。と小さなため息をついて、昌豊さんが口をひらいた。

「昌信の怪我も大分回復したし、今日からは僕らも少し早く休むことにしよう。それに、そもそも瀬那さんが気に病むことなんてないんだからね?」

『…え?』

「自分のせいで…って思ってたでしょ?」

昌豊さんの指摘は図星だった。
優しい瞳なのに、眼差しは鋭くて、まるで捕らえられたように一瞬、視線が動かせなくなった。
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