第1章 【織田軍】プロローグ/盃に月を映せば【丹羽長秀】
ひととおりの洗濯物を取り込み、縁側に腰をかけると、通路の奥の柱の陰に、隠れそびれた銀髪がちらりと見えた。
(長秀さん、今日はこんなところでサボってるのね)
まるで、ネコみたい。
さらりとした銀髪に切れ長の目元、あの翡翠色の瞳と視線がぶつかってしまったときには、信長さんとも似て非なるその怜悧な雰囲気に気圧された。
今でも、ちょっと近づき難いものの、実は面倒見がいい人だということを実感する日々。
聡明で仕事ができること、
一人で鍛錬を重ね、夜に走ったりもしていること、
意外と努力家であることを知った。
それなのに、
自分の領分の仕事を終えれば、
すぐに惰眠を貪っているような気まぐれで不思議な人だ。
他の人の仕事の手伝いもすればいいのにと、
深夜まで仕事に勤しむ光秀さんを見ると、つい休憩している姿の長秀さんの画が脳裏を掠めてしまう。
とはいえ、長秀さんの効率重視のスマートな仕事スタイルは、一社会人として見習うべきなのかも、と少し尊敬していたりもするんだよね。
普段なら、
また休憩ですか?
なんて声をかけたりするのだけれど、先日勝家さんと大がかりな厄魔討伐を終えたばかりだし、今日はそっと寝かせておいてあげよう。
長秀さんを猫に例えるなら、
気高く美しい白色のアメリカンショートヘアーだろうな。
それも、血統証つきの毛並みの良い子。
自分の想像に一人納得したところで、
視線を洗濯物へ戻して太陽の匂いを含んだ布地の、心地よい温かさを感じながら、綺麗に折畳み始めた。