第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
朝の匂いがした。
ふわりと優しく白檀の香りが混ざって、いい匂い。
しあわせな気分。
(…政宗さんみたいな匂い。)
『んん…っ…。』
重たい瞼をゆっくりと押し開けると、息がかかりそうなほど近くに政宗さんの端正なお顔があって、紫紺の瞳が優しい色でこちらをみていた。
「……目を覚ましたか。」
朝からこんな色っぽい表情をして、
艶っぽい声で囁く政宗さんなんて…夢みたい。
うん。これは、きっと、夢だ。
そうに違いない。
なんか温かくて気持ちいいし、まだ、朝日もまだ顔を出さないほどの早朝みたいだし、もう一眠りしよう。
ゆるゆると瞬きをして、そのまま目を閉じた。
『……んー…もう少し。』
「……おい…寝るな……瀬那。」
かぷりと耳朶を甘噛みされて、
『んっ……にゃぁっ!』
すっとんきょうな声が出た。
「………耳を食べてほしいのか?」
『っ!』
耳元で心地いい声が響いたけれど、言葉の意味を頭が理解したときには時既に遅し、耳の輪郭を形どりなぞるように、耳朶に、耳の裏に、舌が這って、背筋がぞくぞくして鳥肌がたった。
『ちょっ、も…うっ!』
目が覚めた。
心臓が跳ね回る。
思考回路を最高速度で起動する。
昨晩の出来事が一瞬で蘇った。
耳朶をちゅうっと吸われて追い打ちをかけられる。
『…ぅにゃぁっ!』
ぱちりと目を開けると、目をそらしているものの、顔を赤らめて楽しそうな笑みを浮かべた政宗さんがいた。
「………やっと起きたな………おはよう。」
『…おはようございます。』
あぁ。夢じゃない。
好きな人に腕枕されて眠ってたら
そりゃあ幸せなはずだ。
『もう!…心臓が止まるかと思った…。』
腕枕の反対の空いている腕は私の腰に回され逃げることが許されず、恥ずかしさの余りにそのまま政宗さんの胸に顔を埋めた。
情事の後の気だるい余韻を感じながら、ちらりと相変わらずそっぽを向いたままの政宗さんをみやり、
ちゅ。
と頬にキスをしてやった。
「…なっ!」
『仕返し…です。…全然足りないけど!』
私にはあんなことしておいて、こちらからされるのには慣れないみたいで、すっごい照れてて可愛い。
『これからもお慕いさせてくださいね?』
「…あぁ……これからも俺から離れるなよ?流石に手の届く範囲しか守れないからな。」
優しく唇が重なった。
