第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
廊下をこちらへ向かってくる足音がきこえる。
「小十郎いるかー?」
無遠慮に戸が開き、書類の束を片手に抱えた成実が顔を出した。
「って、政宗もいたのか!」
「…あぁ。」
「あぁ、成実。今、政宗と昨日の軍議の内容について話していたところだ。」
「お、それならちょうどいいや!ほい、これ昨日の軍議の議事録まとめたやつ!頑張っただろ?俺!」
数枚の紙束をばさりと音を立てて手渡され、さっと目を通す。字が蚯蚓を這っている部分もあるが、しっかりと昨日の軍議の内容が記されていて、きっと眠気と戦いながらなんとかやりきったのだろう。苦手な書類仕事にも関わらず、俺が不在だった間の議題についてもよく纏められていることに少し感心した。
「…よく纏まってるな。」
「成実、仕事だからやって当然なんだが…まぁ、これだけ纏めたのはよく頑張ったな。」
「だろ?俺だってやればできるんだぜ?」
鼻息荒く胸を張って返答する成実を前に、小十郎と視線があい、目だけで頷く。
「そうだな。これだけできるんだから、次からも成実に頼めるな。」
「…あぁ。頼もしいな。」
二人してにやりとする、いつものやりとり。
「え…いや、それとことは…。政宗だって急に軍議抜けるのなしな!」
話を変えようと必死の成実だが、普段ならこういうとき、俺は返答に困り、結局何も言わずに俺の考えを二人に察してもらうのだが……今日はなぜだかいつもよりも素直に言葉が出てくる。
「…昨日は悪かった。小十郎にも、成実にも迷惑かけたな。」
小声でそう言って、昨日作った和菓子の鹿の子を出すと、何故か二人とも俺をじっと見つめて菓子に手をつけない。
「…どうした?」
「…なぁ、小十郎。政宗ってこんな素直に謝ることあったか?」
「…いや。政宗、まだ具合が悪いんじゃないか…?」
悪いことをしたと思ったことを、言葉にしただけだというのに。
「…食べないなら、やらないぞ?」
そう言えば、小十郎も成実も慌てて菓子を頬張った。
「いや、遠慮なく頂こう。…旨い。」
「細かいこと気にすんなって!頂きまーす!んっ。うまっ!流石、政宗!」
「…当たり前だ。」
…昨夜は、想いを言葉にしたら、瀬那はそれをすべて受け入れてくれた…思い出すだけで恥ずかしいが今はとても心が満たされていた。
(了)