第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
『…気づいたら、お慕いしてしまっていたんです。政宗さんのこと。だから、とても嬉しいです…………。』
瀬那は、泣きそうな顔で優しく微笑んだ。
『………でも、』
目尻に涙を溜めて、
頬を紅く染めて、
言葉を濁す。
「………。」
ーーでも。
ーーそれに続くのは、やはり断りや拒絶の言葉だろう
ーー元の世界に、想い人や将来を誓った相手がいてもおかしくはない
ーーどうせ拒絶するならば、何故喜ぶ?肯定などしないで断ればいいものを
喉が渇いた。
一瞬だが、永遠に思えた。
『でも…
…これから、
…もっと、お慕いしてもいいですか?』
そう言った瀬那は破顔の笑みを湛えていた。
一瞬、心臓が動きを止めたのではないか、そう思うくらいに、今は痛い位にドキドキと拍動が身体に響き渡った。
ーー…なんだ、それは。
ーーあわただしく振られる心構えをしたというのに
ーー流石、瀬那だな。全然読めない。
瀬那は、いつも、誰にでも優しく、にこにこと笑う。それなのに、何を思っているか掴み所がなく、近くにいてもどこか遠くに感じる不思議な娘だと思っていたが…
本当はこんなふうに笑うのだな。
瀬那の表情を、きっと瀬那自身も知らないだろうその笑顔を、自分だけが独り占めしていることに、幸福感で満たされる。
「……あぁ…そう想われる男でありたい……。」
何故か、気持ちを素直に言葉にできた。
どちらからと言わずに、身体を寄せて、唇を重ねた。
紅く濡れた唇は柔らかくて艶やかで、甘くて、愛しさが突き抜けていくような感覚に身体が痺れた。
唇を啄むような口づけをすれば、瀬那の身体から力が抜け、そして、うっとりとその甘い痺れに身を委ねているようだった。
徐々に深く深く求めた。
口腔内の僅かに甘い血の混じった唾液を舌で絡めとれば、姫神子の力を持つ甘美な血の味と瀬那自身の甘さを舌の上で転がして、混ぜ合わせて、よく味わってから、飲み込んだ。
『…はぁっ。…まさ…むねさん。』
「瀬那。」
自分が更なる欲に染まっていった。
こんなにも心が満たされた夜は、生まれて初めてだった。