第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
勝手場の壁だと思い込んでいた扉の奥に、もう一つの扉があり、その扉の先に小上がり付きの台所があった。明かりが灯されていて、先ほどまで暗がりにいた私にはとても眩しく感じた。
『なに、ここ。』
その小部屋は、水回りがあって、竈が二口に調理器具が一通り。調理台のような長机が一つ、小上がりには料理の書物が並んだ書棚と幾つかのきれいな食器が並んだ食器棚が合わさったようなマルチラックに、小さな文机。仮眠用なのか布団一式がそろっていて、もしお風呂とトイレがついていたら、神牙版ウィークリーマンションとして成り立ちそうな仕様だった。
政宗さんは小さく舌打ちをして、
「俺の勝手場だ。お前に教えるつもりなどなかったが、見られてしまっては仕方がない。」
…ここに連れてきたの、貴方なんですけど。
という突っ込みをしそうになりつつも、
『政宗さん、専用の、お勝手?』
「そうだ。」
ふんっ…と顔を背けたものの、ちょっと自慢気な様子で話してくれた。
よく見ると、政宗さんも寝衣姿で、その上から白い前掛けを身に着けていた。初めてみる珍しい装いだけれど、可愛く思えて顔が緩みそうになる。
「この部屋を知っているのは、小十郎と成実と城の中でも一部の者だけだ。」
『その秘密を私にも教えてくれたんですか?』
目をそらして、少し照れながら、
「っ…違う!その…他言するなよと言おうとして、だな…。」
と言い、私をちらりと一瞥した。
『ふふっ。わかりました。』
ええ勿論他言致しません。と綻んだ顔で首を縦に振った。
部屋の明るさに漸く目が慣れてきて、周りを見回すと、調理台の上にかわいらしい和菓子が並んでいることに気づいた。
『わぁ、鹿の子だ!しかも、栗入りなんて豪華ですね。これ、政宗さんが作ったんですか?』
「あぁ。」
『さすがですね!とっても綺麗!』
きっと、今日の軍議を抜け出した詫びに、小十郎さんと成実さんに作ったのだろう。ふっくらとした小豆の上に固まり始めた寒天の液が纏わり、きらきらと輝いて見える。
いつも、何かと料理やお菓子を作ってふるまってくれるけれど、ここで作っていたのかーと、なんだか工場見学に来たような心持ちで周りを見回していると、政宗さんと目が合った。
立ったまま腕を組んで、何か言いたそうに、こちらを見ていた。