第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
微睡の中で、小十郎と瀬那の話し声が聞こえた。
俺が素直じゃないだとか
寝顔がかわいいだとか
そんな言葉が聞こえてきて、
徐々に脳が覚醒してきたときに、
―― 涙を零す前に、頼ってください。
と瀬那に言った小十郎の一言で、はっきりと意識が戻った。
…どういうことだ?
『…その折は、その、ご迷惑をおかけして、すみませんでした。ありがとうございました。今はもう大丈夫です。』
俺に触れている手が、少しだけ震えているようで、大丈夫そうには感じられなかったが、瀬那は、しきりに大丈夫だと繰り返していた。
「…全く。政宗もそうですが、あなたの大丈夫も信用ならないですね。」
『でも、あの時は、小十郎さんが、優しくするから…。』
「ほぅ…。では、次は、容赦なく。」
『い、いえ、大丈夫です。ほんとに、大丈夫ですから!』
小十郎は、今日何度目かわからない溜息をついてから、
「わかりました。今はその言葉を信じましょう。」
と、その話を終わりにした。
それにしても、不可解な会話だ。二人の間に何があったのかは、俺には知る由もない話だが、全く蚊帳の外なのも、不愉快だった。
とはいえ、今の体勢から小十郎が見ている前で起きてしまうのも、恥ずかしさも相まって躊躇われて身動きができない。
「では、政宗が目が覚めたら伝えておいてください。」
小十郎は、そういって、調子が悪いようなら夕餉は部屋に運ばせるからその必要があるか、と、今日の軍議の内容について報告のために、明日の午前の都合の良いときに自分の部屋を訪ねるようにという二つの言伝を瀬那に頼んで部屋を出て行った。
…小十郎は、おそらく途中から俺が目を覚ましていたことに気づいていたに違いない。
『政宗さん、起きてますか?』
「随分と小十郎と楽しそうに話していたな。」
『…すみません。起こしてしまいましたか。』
でも、楽しい話なんてしてないですよ?と、とぼけた返事を返してきた。身体を起こすと、瀬那はいつもの瀬那のようだった。
『少しは眠れました?』
そういって、先ほどの小十郎からの伝言を律義にも漏らさず俺に伝え、夕餉を部屋へ運ぶようにいうと、お手伝いがてらに伝えておきますね。とぱたぱたと足音を立てて、薄暗い部屋に俺を残して出ていった。