第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
再びため息をつきそうになって、
ふと、
ーーーため息ばっかりついてると、幸せが逃げちゃいますよ?
瀬那さんに言われた事を思い出して、
何故、彼女の事を考えたしまったのだろう…
と、結局ため息をついてしまった。
姫神子に呼ばれて突然この神牙にやって来たという彼女は、とても不思議な人だ。
自分が座敷牢に囚われている身であったときでも、負傷兵の手当てをかって出た上で、事が済めば牢に戻る律儀な性格だ。城内での自由がある今では、執務の雑用事や身の回りの炊事洗濯の類いをよく手伝ってくれて、正直助かっている。
文字の手習いはまだやっているようだが、上達ぶりを見る限り、飲み込みがいいだけでなく、夜な夜な努力しているのだろう。その勤勉さは成実にも見習ってもらいたいほどだ。
また、ときに姉の面影を重ねて見てしまうときもあるほど、しっかりとしたところもある。
だが、一度、心細くなったのか、郷愁の念にかられたのか、夜にぽろぽろと涙を溢した姿は、何とも儚く美しかった。
人の機微にはよく気づく割には自分のことには無頓着で、人を選ばずに何に対しても物怖じせずに発言をするあたりは、少し政宗に似ていて……妹が一人増えたようだと思っていることは、伝えていない。
その身体に流れる血の力とは切り離された、彼女自身が魅力あるひとであることを、近頃になって認識しつつある気がする。
政宗を探して勝手場に行くと、薪火の付きが悪くて夕食の支度がいつもより半刻遅くなりそうだと料理番から話があった。いつも手伝う瀬那さんの姿がないことを怪訝に思っていると、部屋でゆっくりするといいと伝えてあるとのことだった。
「こんなことになるなら手伝ってもらえば良かったですよ。」
頭をかきながら料理番はぼやき、
「政宗や皆には私からも伝えて歩きましょう。」
と告げると、片倉様にお手を煩わせて申し訳ないですが、お願いします、と頭を下げ、釜戸に戻っていった。
彼女がこの城内で少しずつ打ち解けていることを意外なところから知ることが出来るものだ。
ふっ…と、笑おうとして、今日1日殆ど眉間に皺ばかり寄せた表情で顔の筋肉が固まってしまって、ぎこちない動きしかできないことに気づく。
そんな自分に苦笑しながら、政宗を探しつつ、瀬那さんの部屋に向かった。