第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
ーー……かあっ…!
城内に紛れ混んだらしい一羽の烏が、既に帰巣した仲間が停まる黒く見える木をめがけ、ばさっと羽音をたてて梁から飛んでいった。
(もう、夕暮れ時か。)
政宗不在の軍議をなんとか纏め終えて部屋を出た。
「終わった終わったー!」
堅苦しい軍議に最後までねをあげずに耐え、つい先程その空気から解放された成実は両腕を天井に向かって伸ばし、凝りを解しながら俺の隣を歩く。
「それにしても、小十郎の最後のアレ、かっこ良かったぜ!」
成実が言うのは、出席者の退席時に余計な雑言を口走った者たちへ対しての、
「先程の政宗公への侮蔑の発言、この片倉小十郎の耳にも届いていた。…本来なら此処で処罰の対象としてもいいほどの聞き捨てならぬことではあるが、政宗公も御寛大な方。家臣の資質を疑われても仕方のない発言に対して、次の戦での働きで弁明されよ!」
と少々釘を刺すために言った科白を指しているのだろう。
「いやぁほんと、流石、小十郎だなって思った。
俺、絶対そんな小難しい言い回しできねーよ!」
「まぁ、今日の彼らの悪口やその態度には、俺も流石に我慢がならなかったからな。」
「しっかし、あいつら、昔っから思い通りにならないと直ぐに陰口言うからなぁ。ま、何はともあれ、次の戦の大枠は決まったし、今日はもう夕食を食って風呂はいって、寝るだけだ!」
そういって、口許を横に引き伸ばして“にひひ”と成実は笑った。幼少期と変わらないあどけなさを残した笑みに、思わず釣られて口許が緩みそうになったが、
「……成実。つい今しがた、今日の軍議の議事録の一つを任せたはずだが…?直ぐにやらないとお前は忘れるだろう!」
相変わらず、書類仕事は後回しにする嫌いは未だに治らない。
「明日には政宗の確認を済ませて、周知を…」
「…いや、まぁ、そうだけど……あっ、ずっと同じ姿勢で肩がっ!…まだ夕食まで時間あるし、ちょっと走って来るわ!」
ダッ!っと床を蹴る音が響き、
「って……廊下を走るなと何度言えばわかる!」
そう言い終わったときには既に奴の姿はなく、今日何度目かわからないため息を盛大についた。
普段の政宗なら、家臣の雑言は聞き流すのが常だったというのに、今日は明らかな苛立ちを見せたことが気になった。
朝から顔色が悪かったようだが、一体何処へ行ったのだろうか。
