第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
『夕餉の時間まで僅に時間があります。僭越ながら、膝をお貸ししますから少し休んでください。』
「な…っ!」
……ぽすん。
気づけば、先程まで垂直に伸びていたはずの部屋の柱が水平の景色になっていた。
衣越しではあるが、頬に伝わる瀬那の太腿の柔らかさと温かさがじんわりと身体に広がり、徐々に染み込んでいくようで、心身共に熱くなった。
「……っ!」
驚きすぎると声が出ないことがあるというが、あまりの出来事に思考も身体も動かない。
『身体を横にして目を閉じているだけでも、疲れを取ることができるそうですよ。』
などと言って、瀬那は先程までと同じように、まるで赤子を眠りにつかせるときのように、肩を優しくとんとんと拍子を刻んでいた。
ためらいもなく男に膝枕をするなどどうかしているとしか思えなかったが、瀬那の元いた世界では普通のことなのかもしれない…
……いや、そんなことあってたまるものか。
自分だけの特等席であってほしい……
そのようなことは口が裂けても言えないが。
俺にしか見えない世界があるとするならば、
瀬那にしか見えない世界もあるのだろう。
出会った頃は、頑なに人の言うことを訊かず、こんなに可愛いげのない女もいるのだなと思ったほどだったが、勝手のわからない別世界に飛ばされたのならばそれも仕方のないことだったのだろう。
最近は表情豊かで心根は明るく優しいこと、負けず嫌いで努力家で勤勉であることもわかってきた。
そして、時折物憂げに空を仰いだりしていることも。
それにしても、
一見、分かりやすそうな性格に見えて、
その心の中が読めない奴だ。
羞恥心で全身が火照ったはずなのに、
不思議と、
とても心地よくて、
張り詰めていた緊張が解け
力が抜けるようだった。
そして、
そのまま、
暫しの微睡みを味わったのだった。