第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
唐突な問いで、戸惑っただろうか…。
瀬那は規則的に俺の髪をぽんぽんと撫で続けながら、
『そうですね…初めて出会ったときから、政宗さんは政宗さんでしたから、隻眼であることをあんまり気にしたことがありませんでしたけど……』
「なんだ、それは…。」
なんともよくわからない答えを返してきた。
ーーーなんとお痛わしい。
ーーー幼いのに可哀想に。
ーーーまあ。なんて、醜い。
今までこの隻眼のせいで、よくも悪くも、どちらかといえば良くない意味で好奇の対象とされてきたが、こんな肩透かしの反応は初めてかもしれない。
幼少の頃の病で右目を失い、身の回りの全ての者たちから、まるで腫れ物に触るような扱いをされてきた…
祟りだとか、不吉だとか、迷信めいた事を言うものもあって、実母にすら甘えることなどさせてもらえず、嫌われ遠ざけられた…
思い出しても仕方のないことだ。
蘇る記憶が鮮明になる前に頭の中から書き消した。
小十郎や成実は俺が右目を失っても尚、関係性は変わらずにいて、今がある。それで良い。
さて、瀬那はなんと答えるか……
瀬那は、右目を覆う眼帯にかかる前髪をそっと払い、壊れ物を触るかのように優しく眼帯越しに右目に触れて、
『……敢えて、どう思うかと問われれば、この隻眼で、政宗さんは、政宗さんにしか見えない世界を視ていると思ってます。』
と言い切った。
反射的に瀬那の顔を見ると、その双眸は、俺の瞳の奥底を射抜くように、真っ直ぐだった。
『そうでなければ、毎度のこと他人の意表をついた奇策を思い付けるはずがない、そう思います。』
そう付け加えて、急にどうしたんですか?と少し困ったように微笑んだ。
……俺にしか見えない世界を見ている、か……
「ふっ。…お前は、可笑しなことを云うな。」
思わず、笑いが溢れた。
『そんな、真面目に答えたのに、可笑しいだなんて。』
「あぁ。………いや、悪くない答えだ。」
瀬那は、拗ねたような素振りをしつつ、言葉を続けた。
『実生活では勿論距離感がとりにくいとかあるのかもしれませんけど、私、政宗さんが周りのこと、先のことを、神牙のことをよく見て、よくお考えになっていることは、承知しているつもりです。
そして、
今、とてもお疲れだということも。』