第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
政宗さんが、人の肩に寄り掛かりながら、こちらを見上げるようにして柔らかく微笑んで、
―おまえの傍は落ち着くからな
なんて口説き文句みたいなことを言うから、心臓が早鐘の如く拍動を刻み、一瞬で全身がかぁっとあつくなるのがわかった。
政宗さんのへそ曲がりの天の邪鬼の言動に慣れてきたせいも相まって、ふいに投げ掛けられる直球の表現は、私の心臓に毒だ。
貴方の本心に、私への特別な好意があると勘違いしてしまいそうになる。
世に云う、ギャップ萌えというのはこういうことなのかも…。なんてことを思いつつ、不覚にも狼狽えさせられて、なんだかすこし悔しい。
『…もう、政宗さんのせいですよ。』
「…ふん。」
政宗さんは、ぷいっと顔を反らして不遜ぶりつつも、しっぽをぱたぱたさせながら先程よりも重心をこちらに預けてくる。
まるで甘え足りない“わんこ”みたい。
(もう、全然説得力ないんだから。)
言葉と態度が正反対な、でも普段は見られない、ちょっとだけ素直な政宗さんが可愛くて、頭に頬を寄せてぽんぽんと撫でてみると、艶とコシのある髪の感触が気持ち良い。
ぽん、ぽん、と私が触れるたびに、政宗さんの垂れ耳がぴくり、ぴくりと動くのが頬に伝わってきた。
(…ふふっ。ちょっと、楽しいかも。)
「…おい。何をしてる。」
『頭を撫でています。』
「………。」
『…おつかれさまです。最近、ろくに休めてませんでしたよね。…気持ちいいですか?』
「……まぁ……悪…く…………ない…。」
拒絶されるかと思ったけど、政宗さんは辿々しくも、意外とあっさりと肯定して。
『政宗さん、顔が赤くなってますよ?』
「っ…。夕陽のせいだ。」
成実さんなら、いや、違うだろ!ってつっこみをいれそうなくらい、私から見ても、照れてるように見えるんだけど、今はそういうことにしておこう。
『……綺麗な夕やけですね。』
「…………あぁ。そうだな。」
世界が温かな橙色に染まっていた。
夜の帳が下りる前の、
今日も一日ご苦労様でした。また、明日ね。
と太陽からの別れの挨拶のとき。
ぼんやりと時の流れを感じながら、心地よい静寂に包まれていると、
「瀬那。…お前は、この隻眼をどう思う?」
政宗さんは夕陽を見つめたまま、ぽつりと呟いた。