第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
今日の軍議では、次の戦の戦略や布陣、兵糧の準備に敵陣営の動きの予測を含めて、かなり込み入った話が続いた。
小十郎と成実はもちろんだが、他の臣下のものも主力となる面子が揃って議論を進めていた。しかし、人数が多くなったことにより、異なる意見が出てくるのは必然で、ことのほか戦略については異議を唱えるものがでて、折り合いがつかずに話が堂々巡りとなっていた。
そんな状況に意見を認められないことに苛立ちを募らせた一部の古株の臣下から、
…我らの戦略がいいと云うのに決めきれぬとは…
…隻眼であるが故に先見の名をも失っておられるのでは……
…近頃は素性もわからぬ女を匿っておいでだ…
などとひそひそと雑言が漏れ聞こえてきた。
これまでに我が隻眼を後ろ指さして嗤うもの、嘆くもの、嘲るものなど幾多もあったというのに、なぜか今日は、黙って耐えることができなかった。
疲れのせいか、瀬那まで引き合いにして訝しまれたせいか、胸のうちに張り詰めていた糸がぷつりと音を立てて、切れた。
「……いいたいことがあるならはっきりと申せ。」
「…いえ、空耳にございましょう。」
「ろくに議論も出来ない耄碌に成り下がったか。大方の方針を変えることはない。小十郎、あとは任せた。」
そう悪態をついて、話半ばの軍議の途中で、後始末を小十郎に一任して部屋を出て来てしまったのだった。
「待て、政宗!!」
「政宗ー!どこ行くんだよ!?」
遠くから小十郎や成実が引き留めようとしている声が聞こえたが、今更引き返せるわけもなく、ずんずんと部屋から遠ざかった。
ふつふつと湧き上がる不快感だけを抱えて、何を考えて城内を歩いたかはわからないが、自然と足が瀬那の部屋へと向かっていた。
ただ、無性に、あいつの顔が見たかった。