第1章 【織田軍】プロローグ/盃に月を映せば【丹羽長秀】
ーったく、なにが甘え上手になりたい、だ…
情事の後のなんとも言えない倦怠感に包まれ、腕の中には、あどけない顔ですぅすぅと寝息をたてている瀬那がいた。
白い肌に長い睫毛。
起きているときよりも、幼さを感じる穏やかな表情に思わず、頬が緩む。
先程まで熱を滾らせた自身をその蜜壺にすっかり咥え混んで、最奥を刺激されては善がり、躊躇いつつも控えめな嬌声を溢しながら何度も絶頂を迎えていた、乱れた様とは大違いだ。
(まるで童のようだな。)
浴衣と夏掛けをさらりとかけてやったが、未だに生まれたままの姿では、夜も更け、情事の熱も冷めてきた今となっては、瀬那には少し肌寒いのかもしれない。
『ん………』
もぞもぞと動いたかと思えば、
『…なが…ひ…で……さん…』
と可愛い声で夢うつつに俺の名を呼び、
身体を擦り寄せてきた。
また襲われたいのか?と思わせるような仕草に、思わず幸福感を帯びた苦笑が漏れる。なにか言いたいことでもあるのかと、身構えたものの、言葉は続かなかった。
(…寝言か。)
人に期待させておいて、寝言とは。
だが、眠りの中、夢の中でも俺と共に過ごしているのだろうか?それとも、俺のことを考えているのか、想ってくれているのか?
嬉しい反面、妬ける。
こうして目の前に俺がいるというのに、夢の中の“長秀”とやらと共に過ごしているのであれば、それがいくら自分でも些か不愉快だ。
自分に嫉妬することもあるんだな。と思わず、自嘲する。
空いている片腕で瀬那の身体ごとぎゅっと抱き寄せると、背中に回しきれなかったか細い瀬那の腕が俺の背に届き、俺よりも少し高い体温が、柔らかく滑らかな肌越しに伝わってくる。
瀬那の顔にかかる髪の一束をつまみ、避けて、頬撫ぜ、腕の中で眠る瀬那をしっかりと囲い、囁く。
「俺に言いたいことがあるなら、目を見て言えよ。」
そのまま可愛らしい小さな耳を掌で包み、柔らかそうな耳朶を指先で弄ぼうとすると、眠っていたはずの瀬那の身体がぴくりと反応した。
そして、重たそうな瞼は、何度かの抵抗をしながらも、ゆっくりと気だるそうに持ち上げられた。