第1章 【織田軍】プロローグ/盃に月を映せば【丹羽長秀】
やってしまったと思った。
実のところお酒は好きだが、普段は夕餉の後の片づけを手伝ったり、光秀さんとのお勉強の復習だったり予習だったりをしていたので、控えていたのだ。
(勝家さんと飲み比べなんかしたら流石に負けそうだし。)
何より、注がれたら飲んでしまい、
そして、酔って潰れる前に寝てしまうタイプ。
だからこそ、そんな醜態を、見ず知らずの異世界の方々にひけらかす訳にはいかないと思ってのことだった。
「酒が飲めることを隠す理由は?」
質問しながらも、まぁ、飲めよと、盃にお酒が注がれ、自然と盃を口に運ぶ自分がいた。
芳しい華のような香りのアルコールが身体に染み渡り、身体がふわふわと軽くなるような感覚に襲われて思いの外酔いが早く回っていることを察した。
(そりゃ、湯上がりで飲んだらこうなるよね…。)
そして、素直に白状する。
『普段は夕食のお片付けのお手伝いもありますし、連日、長秀さんや、光秀さん、勝家さんの貴重な時間を頂いて色々教わっている身ですので…。それに、あんまり強くないから…。』
視線をあげると、翡翠色の瞳。
(あぁ、なんて綺麗な色なんだろう。)
まるで宝石みたい。
思考がぼんやりとして、
でもなんだか気持ちがいい。
「もう酔ったのか?」
首を縦にふって肯定した。
「ふっ。そうか。まぁ、いい。そんな風にあんたの酔った姿を他の奴にみせるのは惜しい。それに、今夜は俺に付き合ってくれるんだろ?なぁ、瀬那。」
と急に甘い声で名前を囁かれて、身体がぴくりと反応した。
ぐらりと身体が揺らいで
気づくとすぐ目の前に翡翠色が迫っていた。
『…っ。な、長秀さん!…んっ。』
近いです!と抗議する前に、唇で口を塞がれた。