【イケメン革命】月小屋続編◆返還の祭典【R-18】
第8章 DAY4【カイル・アッシュ】
カイルの顔色はすっかり良い。
サクサクのクロワッサンにロースハムとスクランブルエッグ、サニーレタスが挟んである。レイアは思いっきりかぶりつく。
「んんっ!おいひー!」
「おい、食いながら喋んな…一応レディだろうが」
「ご、ごめ…」
咎めるカイルの表情は仕方ないな、と言わんばかりの優しげな顔だった。
「カイルも顔色良くなったね!アンナ夫人のミントティーのおかげかな…すごく楽しかった!」
「ああ、そうだなー」
カイルは僅かに切なげな顔をして空を仰いだ。
「……俺が軍に入って往診始めたばっかりの頃、最初はあのばあさんの旦那の方を診てたんだ」
「そうなの?」
「2年ほどで亡くなったけどな」
カイルは遠くを見つめている。
「あの頃は先代と……あーつまり俺の親父と往診に回ってたんだ。夜中の急変、怪我、重病人……いろんな患者を診てきた」
「カイルのお父さんもお医者さんなんだね」
「ああ。親父も5年前に死んだけどな」
「えっ……」
一迅の風が吹き抜ける。
風に赤いくせ毛が揺れて
いつもダルそうなカイルが、やけに大人びて見えた。
「今でこそ医者として随分みんな信頼してくれてるが、俺はまだ救えなかった命の方が断然多い」
「カイル…」
「あのばあさんも、もって半年だ」
「えっ……」
淡々と紡がれる命の現実に、レイアの胸がぎゅっと締め付けられた。
カイルは飛び級で学校を卒業し、若くしてランスロットと同期で入隊している。
そこから父親を亡くし、一人で背負ってきた命との戦いを思うと、計り知れないものがあった。
「でも、カイルに救われてる人も沢山いるよ!私だって何度もお世話になってるし…カイルのこと、みんな必要としてるから!だからえっと…」
しんみりした空気を何とかしようとレイアが口を開くと、カイルはふと目を細めて覗き込んできた。
(えっ………)
突然至近距離に迫るオリーブカラーの瞳にドキドキしてしまう。
「お前……」
掠れた声に、頬が勝手に熱を帯びる。
反射的に目を閉じると、唇に指が触れてなぞられる。
「んっ……」