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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『ロシアンクールに、不意打ち。』

「もっと踵から引き上げなさい!」
厳しいリリアの叱咤に、ユーリは眉根を寄せながら足首を意識する。
「あの…ガスパジャー・バラノフスカヤ」
「リリアで結構よ。何かしら?」
「リリアさん。何で僕、ここでピアノ弾いてるんでしょうか?」
「悪いわね、今日の伴奏ピアニストが急遽来られなくなったものだから。それに貴方のピアノは、ユーリと相性が良いようだし」
「せやし、僕はプロと違…」
「自分を卑下するのはおやめなさい。それは美しくない行為…ユーリ!何度言ったら判るの!」
(クソがあああ!)
「口に出さなくても、今貴方が何考えてるか判るのよ!」
リリアの容赦ないバレエレッスンは、ユーリの体力がゼロになるまで続けられた。
スタジオの真ん中で大の字に寝そべりながら荒い呼吸を繰り返すユーリを、リリアは冷ややかに見下ろす。
「まだまだね。これから体型変化を迎えるにあたって体力をつけておかなければ、身体の成長に追いつかなくなるわよ」
「…わーってるよ」
「失礼しまーす。そろそろ俺達の時間…って、ユリオが虎ならぬ猫の敷物になってる」
「ユリオ、大丈夫!?」
面白そうに呟くヴィクトルと、ドリンクのボトルを携えながらユーリに駆け寄る勇利に、純は視線を移した。
やがて勇利の補助で身体を起こしたユーリに、リリアは改めて現在の彼に不足しているものを懇々と説明する。
そんな彼女の説教を聞いている内に、仄かな悪戯心が芽生えた純は、指を鍵盤の上で動かした。
「いいですか、ユーリ・プリセツキー。あなたのその未熟な所は…っ!」
純が奏でる旋律を耳にした瞬間、ヴィクトルは笑い声を上げ、リリアは珍しく不意を突かれたような様子で咳き込んだ。
「ど、どうしたんだよ!?」
「──何でもありません」
いつもの表情に戻ったリリアは、弾かれたように頭を下げる純にきつい一瞥をくれると、スタジオを退室した。
「サユリ、今何弾いたんだ?」
「んー?『展覧会の絵』」
「俺の知ってるメロディと違ったけど…」
「テーマだけでも10曲近くあるからなあ」
「まさに、今のユリオにピッタリの曲だったよ♪」
「ヴィ、ヴィクトル。それ以上は…」

その後、曲名『卵の殻をつけた雛の踊り』と知ったユーリが暴れだしたのは言うまでもない。
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