• テキストサイズ

【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『サムライ、褒美をねだる』


『漆黒の怪物』勝生勇利引退翌年の世界選手権では、幾多の強豪選手達を抑えて『青い瞳のサムライ』伊原礼之が、見事初の世界王者に輝いた。
地元日本開催の世界選手権とあって、次世代エースの偉業に、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。
「やったな。ま、来シーズンは俺がタイトル奪い取ってやるから、せいぜい今の内に堪能しとけよ」
「おめでとうって言って欲しかったのに…足は平気?」
「もう殆ど元通りだ。ロシアに戻ったら本格的に練習再開だな」
今季は足首の療養を兼ねて休養していたユーリは、客席から礼之を祝福した。
久しぶりに俯瞰から試合を観戦して、改めて競技への闘志を燃やすと共に、同じ競技をするライバルであり、そして愛する恋人の快挙に、嬉しい気持ちを隠せずにいたのだ。
「客席からユリが応援してくれてたから、みっともない真似はできないぞ、っていつも以上に頑張ったんだ」
「お、俺よりも沢山の観客がお前を応援してたじゃねぇかよ」
「勿論それも嬉しかったけど…僕が何より聞きたいのは、君の姿と声だから」
礼之の真摯な青い瞳に見つめられて、ユーリは僅かに早まる鼓動を抑えようと右手を胸元にやる。
するとチャリ、とペンダントが音を立てて揺れた。
礼之からプレゼントされたそのペンダントは、今のユーリにとって何よりも大切な物である。
付き合い始めたばかりの頃とは違って、成人してすっかり男らしさを増した礼之はどこか頼もしく、だけどほんの少しだけ当初の可愛らしい所が鳴りを潜めてしまって面白くないな、ともユーリは考えていた。
「お前、この後東京の自宅に帰んのか?」
「昔と違って色々取材もあるから、近くにホテルを取ったよ」
「そっか。じゃあ、また明日…」
ユーリも都内のホテルに宿泊していたので、礼之から背を向けようとしたが、不意に手を掴まれる。
「んだよ」
「僕、今回ちょっと奮発してツインの部屋取ったんだ」
「は?」
「だから、今夜は帰らないで傍にいて…くれる?」
手汗を滲ませながら真っ赤な顔で囁く礼之に、思わずユーリの頬まで赤くなる。
「…ダメ?」
「…バーカ!そういう時は、『今夜は帰さない』って言うんだよ」

ユーリはわざと声を荒らげながら、それでも抗う事なく恋人の胸にその身を預けた。
/ 230ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp