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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『漆黒の怪物』


ピーテルで開催された小さなショーに、ヴィクトルと共に参加した勇利だったが、ほんの少し席を外して控室に戻って来ると、自分の荷物が床にぶち撒けられているのに気付いた。
貴重品は別に預けていたのでそちらの被害はなかったが、今日使用する予定の衣装があちこち切り裂かれてるのを、信じられない思いで見つめる。
「勇利…!」
「…こういうの久々だよね。よりによって純から貰った衣装を…」
かつて、純の現役最後の全日本のEXで譲り受けた衣装の切れ端を、勇利は床から拾い上げながら眉根を寄せた。
2人のただならぬ様子に、遅れて来たヴィクトルと今回は出番のないユーリが近付いてくる。
「衣装の被害はどないや?修繕できる可能性は」
「ここまでされたら難しいだろう。替わりの衣装を持ってこさせるにしても、時間が…」
「ったく、誰だ!こんな真似しやがったのは!」
渋面を作るヴィクトルと怒りに声を荒げるユーリを他所に、勇利は破られた衣装を前に暫く考えていたが、やがて何かを決意したかのように顔を上げると、「純、」と友の名を呼ぶ。
「好きにし。それはもう勇利のモンや」
「有難う。でも…ゴメン」
勇利の意図を理解した純が頷くのを確認すると、勇利の手が衣装を更に引き裂いた。
「勇利?」
「カツ丼!?」
「ヴィクトル、前に一緒に作ったもう1つのEXを」
「あぁ、成程…判ったよ」
「ユリオ、君のそれ貸して。何なら後で新しいの買って返すから!」
「え?い、いいよ。貸してやるよ!ほら」
ユーリは仄かに赤面すると、自分の身に着けていた小物を勇利に手渡した。

リンクの中央に臥した勇利は、苦悶の表情でひっくり返ったが、見えぬ手によって無理矢理起こされる。
勇利のEX『プリズナー』は、破れた衣装と鎖付きのチョーカー、そして顔と身体の殴られたようなメイクに、観客は妙な緊張感に囚われた。
氷の上から腹筋だけで起き上がった勇利の身のこなしと、力強くそれでいて優雅な滑りに周囲が圧倒される中、ユーリは舞台袖で気まずそうにしている人影の後ろを、さり気なく通り過ぎる。

「お前ら如きが勝生勇利をどうこうしようなんざ、21世紀早ぇんだよ、バーカ」

そんなユーリの言葉を聞くまでもなく、彼らは『怪物』の力を目の当たりにして、ただただ戦慄していた。
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