第1章 出会いとそれと
かくして、グラウンドから裏山に逃げ込んだ俺、
修行でよく使った、足場の悪い山道を一人登っていると、子供じみた意地を張ってグラウンドを飛び出した事が若干、心残りに思えてくる。
「……ちぇ、なんか後味悪い。」
口の中にいまだに残る、ラムネの口を吹き抜けるような味より
ずっと、今の気分はどうにもやりきれない。
いくら優れた家系だからとか言われても、有名な忍の末裔だとか言い聞かされても、
俺が一番やりたいのはサッカーなんだよ。
それなのに数週間、忍術の修行ばかり長続きしたら、俺も嫌気がさしちまうって。
……確かにそうなんだけど。
いや、でも
「っ……別に、
忍術やるためにサッカーやってるわけじゃあない……けど、」
少し足を休め、俺は木に凭れて座り込んだ。熱い空気を相殺するようにひやりと冷たい木陰が、上から自分を見下ろしているように感じた。
「風魔……初鳥……
お前らは、嫌にならないのか…?」
確かに、サッカーがやりたいって気持ちは変わらないし修行は嫌なままだ。
けど、仲間のアイツらは、投げ出した俺と違って文句一つ言わずに修行に励んでるという事実。それは俺がいくら突っぱねたところで変わるよしもなく、
サッカーは個人で行う競技じゃない、って
団体競技だって、キャプテンでもないアイツに諭されたのに。
「……あー、くそ…
これじゃ勝手に拗ねて飛び出してきた俺が馬鹿みたいじゃないか……」
少し熱にのぼせた頭が冷えたせいか、身勝手な行動をしたついさっき前の自分を省みる余裕が生まれてきた。木陰は涼しくて、暑からず寒からずの程よい空気の温度が、山道を休み無く登ってきた疲労と相まって眠気を誘う。
「……ちぇ、
…帰るか。ここにいたって何も出来やしない」
どことなく重い腰を上げ、俺は来た道の方角に向いた。
炎天下、正確な時刻は不明だが昼過ぎ頃。
早く戻らなければ、という焦燥感は生憎微塵も感じなかったのに
何故だかそわそわと心が落ち着かなくて、
「……え、」
そして前触れもなく現れたそれに
目も心も奪われた、ってのは
行き慣れた山で見た幻想、だったのだろうか
「…え、
ひ、人……?!」
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そして冒頭に。