第1章 寝起きとアイドル
さて、そろそろお腹に何か入れておかないと。仕事中に倒れてしまってはたまらない。
冷蔵庫の中に何かないかなと扉を開けてみると、一瞬ひんやりした冷気が顔にかかる。
「食べるもの食べるもの....」
ごそごそと冷蔵庫の中を漁っていると四つの小分けになったフルーツヨーグルトを発見した。「あ、こんなんでいいじゃん」と手を伸ばす。その直後、自分と同じ方向に伸びる手の存在に気付き目線を向ける。
「あ、ごめんね。これ取ろうとしてた?」
手を伸ばしたのは逢坂壮五だった。
私と同じ歳のしっかり者で、どこか女性のような気品を感じさせる青年だ。
「あ、壮五さん。まあ四つもあるから、謝ることじゃないよ。」
「それはそうなんだけど...」
何故か語尾を濁し俯く壮五に、私は首を傾げる。流石に、四つ全部食べる。なんて普段の彼からは想像ができない。
「実は、一織くんと環くん。それから陸くんも食べたいって言ってて...」
なるほど、4つの小分けを4人で分けようとしたわけだ。私がそのうちのひとつを取ってしまえば、4人のうち誰か1人がヨーグルトを諦めなければならなくなる。
「僕は諦めるよ。陽菜乃さんは好きなのを取って。」
そう言って笑顔を向ける壮五を見ていると、歳に関係なくメンバーの誰にでも基本穏やかな表情を向けている彼に関心した。
「あー...じゃあ、私のを一緒に食べる?と言っても、半分こするほどの量じゃ無いんだけどね。」
あはは、と苦笑する私に「じゃあ、そうしようかな。」と返した壮五の反応が意外で、一瞬頭がフリーズする。
「え?」
「あ、いや!その...嫌なら良いんだけど...」
「まさか!自分から言いだしておいて嫌がるなんて事ないよ。じゃ、壮五さん達に混ざって食べようかな。」
「環くん達に先に好きなものを選ばせても良いかい?」
「良いよ、私は特にこだわりもないし。」
「僕も特にないから、選んでもらうね」
そう言うと、壮五は食卓の方へ歩きながら、既に食卓に座っていた3人に向かって「環くん!陸くん!一織くん!どの味が良いか選んでくれるかい?」と声をかける。