第1章 寝起きとアイドル
寮の共同部屋に入れば、アイドリッシュセブンのメンバーが既に全員集合していた。
「あ、おはようございます。陽菜乃さん!」と、律儀に頭を下げる紡に短く挨拶を返し食卓についた。
アイドリッシュセブンのマネージャーである紡は早起きだ。今日のアイドリッシュセブンは朝からスケジュールがみっちりだったはず。大方、今の時間からスケジュール確認をしようとしていたのだろう。彼女の仕事の出来には、毎回感心させられる。
「Oh!!おはようございますヒナ!!」
「おはようナギくん、今朝も絶好調ね」
「イエス!笑顔は周りに移っていきます!」
「そう、なのかな。でも笑顔はアイドルの命だよね。」
特に深い意味もなくそう言った私を、六弥ナギはじっと見つめてくる。彼の浮かべる表情は、生まれつき持ち合わせた整った顔立ちを崩す事なくこちらに向けるので未だに慣れない。恥ずかしい。
「あなたにとってワタシは、アイドルではありませんか?」
唐突に質問を投げられ、私は頭上に「?」を浮かべた。
しかしすぐに自分の意見を率直に伝える。
「アイドルだよ、私もアイドリッシュセブンのファンなんだから。」
「では、あなたにもこの笑顔。移ってほしいです。」
彼の声音が少し変わった。さっきまでの高めのトーンはどこへやら。
落ち着きのある低めのトーン。彼の目線も相まって、悪い意味ではないが、迫力がある。
「...何言ってるの、ナギく」
「どうしてそんなに苦しげな顔をしているのですか?」
彼はいつも、人の胸の内にある何かを見透かしているような目線を向ける。
生まれ育ったお国柄なのか、それとも彼の正義感が強いのか。正直に言うと、“コレ”にはあまり深く干渉しないでほしい。