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【YOI】『少年』の最期【男主&ユーリ】

第3章 『少年』の最期


スローテンポの曲を滑るのが、アップテンポのそれよりもずっと難しい事を知ったのは、恥ずかしながらシニアに上がって少し経ってからだった。
ある時1人リンクで戯れに勇利のFSの触りを滑ろうとした所、ジャンプもそうだがゆったりした曲調にも関わらず、各要素やつなぎ等の濃密さに驚愕した程である。
「スケートもやけど、スローテンポやピアニッシモの曲を演奏し続けるんは、実はフォルテシモでアップテンポの曲よりずっと難しいんやで」と、純も今回のプロをピアノで演奏しながら教えてくれた。
ピアノは全くの初心者であるユーリは、ゆるやかなテンポの部分を一緒に弾いてみようと誘われ、覚束ないながらも利き手の指数本だけでセッションを試みた。
『シ、だけ黒鍵な。そうそう、上手いで。1拍目を意識しながらド、シ、ラ、ソ、ファ…』
自分の隣で優しく微笑む純のなめらかな指の動きにつられ、いつしかユーリも演奏を楽しんでいたのである。

(だから俺は、このプロをサユリのピアノで滑りたいと思ったんだ)
純とのセッションを思い出したユーリは、鍵盤をなぞるような手つきをしながら滑り続ける。
(サユリは大変だったろうけど、それでも俺の願いにガチで応えてくれた。だから、今度は俺の番だ。これからの俺をよく見てろよ…お前が『素敵だ』と言う相手は、勝生勇利だけじゃねえって事!)
音楽が再現部になり、アップテンポのテーマに戻った瞬間、ユーリの顔つきが変わった。
口元には変わらず笑みを浮かべているが、序盤で見せたあどけない表情から何処か大人びたものになる。
「!」
かつてのヴィクトルとも異なる、これまでの悪童から明らかに変化したユーリの姿に、ヤコフは感嘆の吐息を漏らした。
薄っすらと目元を潤ませているリリアの手を取りながら、純はひと言告げる。
「ユリオくん…いや。ユーリィ、ダヴァイ」
そんな純の流暢なロシア語が聞こえたのかは定かではないが、直後スケルツォの3拍子に乗りながら、ユーリのブレードが氷の上に巧みなステップを刻んでいった。
「やっぱり若い子って凄いなあ。ちょっとの間にグングン上達していくんだもん」
「俺達も、負けてられないね」
「──うん」
ヴィクトルの言葉に頷きながら、勇利はリンク上のユーリを先程よりも真剣な表情で見つめていた。
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