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【YOI】『少年』の最期【男主&ユーリ】

第3章 『少年』の最期


リンクに登場したユーリの姿に、彼の私設ファンクラブである『ユーリエンジェルス』から黄色い声援と悲鳴が轟く。
いつもなら彼女達に渋面を隠せずにいるユーリだったが、赤いマントを羽織った姿勢ではにかみながら小首を傾げてみせた。
「わぁ、リンク上でもユリオがちゃんとファンサービスしてる」
「脳内で1、2回位は吐血してるかと思ったけど、今のユリオは凄く落ち着いてるね」
勇利とヴィクトルの囁きを聞きながら、純はリンクのユーリを一心に見つめていた。
(──今までの君と、これからの君。存分に見せつけてやり)
純の視線に気付いたユーリが、小さく頷いて間もなく音楽が始まった。
ドヴォルザーク作曲『ピアノ五重奏・第2番』より、第3楽章のスケルツォ。
軽快なヴァイオリンのメロディに合わせて、その場で小さく身体を揺らした後、ピアノが同じメロディを奏でたと同時に滑り出した。
(チビだった俺を、オフクロが気紛れに連れ出した町の小さなスケート場…初めて履いたスケート靴は、近所の奴のお下がりでガタガタのボロボロだったけど、それでも氷の上を滑る感触は、本当に気持ちが良かった…)
時折ジャンプやターン等を混ぜながら、まるでスケートを始めたばかりの子供のような表情でリンクを滑り続けていくユーリに、観客の視線が集中する。
「GPFでの過激なプロも凄かったけど、これはこれで可愛い!」
「EXだからか、いつものトゲトゲした所が減ってるな」
周囲の声を他所に踊り続けるユーリは、不意に天井を仰いで一層表情を輝かせると、白いセーターの上に羽織っていた赤いマントを回りながら外した。
五重奏によるメロディに合わせて、時折ライトの効果による光の粒を拾い上げるようにしながら再び踊り出す。
(君が僕に教えてくれた、ダイヤモンドダストの思い出やな)
(──ああ。後で散々当時の先生や爺ちゃんに叱られたけど、あの事があったから、俺はこの道を選ぶ事を決めたんだ)

極寒の屋外であるのを忘れる位、幼いユーリにとってそのダイヤモンドダストは、文字通り宝石のようだった。
何度呼び掛けても氷のダイヤモンドの中で回るのを止めないユーリは、やがて痺れを切らせたコーチによって連れ戻され、帰り道に祖父のコーリャからもひとしきり説教されたが、その後で「ユーラチカが1番上手だった。とても輝いていたぞ」と続けてきたのだ。
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