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【YOI】『少年』の最期【男主&ユーリ】

第2章 今までの君と、これからの君。


もしもあの時怪我をしなければ、恐らく勇利の陰でそこそこの成績を残した後、学生卒業と同時にスケート界から永遠に引退し、勇利とも今のように判り合える事などなかっただろう。
そして、
『経緯はどうあれ、今の俺はお前のコーチだ。この先お前がスケート嫌だやめるって言わない限りは、例え他の誰もがお前を見捨てたとしても、俺は絶対に見捨てない』
おそらく自分が本当は心の底からスケートを愛していた事にすら、気付かずにいたと思う。
(人生は不思議なモンや。昔の僕に「君は将来、同性のヒゲの恋人になって、スケートの神様と全裸で取っ組み合いの喧嘩するんやで」て言うても、絶対信じひんやろしなあ…)
かつての挫折を経たからこそ、今の自分が存在する。
競技選手としては引退したが、自分にはまだまだこれからスケートでやれる事があるし、自分次第で幾らでも選択肢は広がっていく。
今はそれらの為の下準備も兼ねて、失敗を恐れずやってみるのだ。
「…さて、僕もウジウジしてられへん。ちょっとだけ休んだら、録音した音源で振付の再確認や」
スマホのタイマーをセットすると、純は医務室を出て行く寸前までこちらを気にかけていたユーリの顔を思い浮かべながら、目を閉じたのだった。

「キープ・スマイリングやで~、ユリオくん」
「わーってるっての!見た目以上に結構キツイぞ、このプロ!」
「ユーリ!無駄口を叩いてないで演技に集中せんか!」
少し離れた場所からの声援に減らず口で返した後で、ヤコフのカミナリが飛ぶ。
勇利には劣るが、現役時代も評価がそれなりに高かった純の振付によるステップを、ユーリは昨日彼が渾身の力で作り上げてくれた音楽に合わせて刻み続ける。
(1拍目…あの時サユリが見せてくれた、ピアノの左手の動き…!)
刹那、エッジと音楽がピタリとはまったのを全身で感じたユーリは、思わず顔を綻ばせる。
その無防備な笑顔を見て純は勿論の事、ヤコフも思わず幼少期のユーリを思い出して目を見開いた。
「良かった。僕、あの笑顔が一番見たかったんや。スケートは辛い事もぎょうさんあるけど、同じくらい楽しい事もあるから…」
「驚いたよ。今のユリオのステップ、一瞬純が乗り移ったのかと思った」
「ま、中々じゃないの?新米振付師さん」
師弟の言葉に、純は照れ臭そうに笑った。
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