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【YOI】『少年』の最期【男主&ユーリ】

第2章 今までの君と、これからの君。


スタジオに入室してきた純を見て、リリアに呼ばれて集結していたカルテットのメンバーは露骨に怪訝な顔をした。
「…驚くのも無理ないわ。せやけど、今はそれについて説明しとる時間が惜しい。これから貴方達が演奏するんは怪しげなイポーニェツの為やない。ここにおる未来の英雄の為や」
純の流暢なロシア語と、彼の隣に佇むユーリに気付いたメンバーは、先程よりは興味を示したような表情になると、純に「こちらへ来い」とジェスチャーする。
「サユリ。えっと…お、お…『オキバリ、ヤス』!」
「『へぇ、おおきに』。その言葉も覚えてくれたんか。嬉しいわあ…安心し。絶対にユリオくんの満足する音楽を作ってみせるから」
そうユーリに微笑みかけた後で、純は彼らの値踏みするような視線を臆する事無く受け止めながら、ピアノへと向かった。

それからというもの、時に「ニェット」「あかん」どころでは済まない罵声も飛び交う中、純はひたすら聴こえてくる弦楽合奏に神経を集中させながら鍵盤を叩き続けた。
(予想以上や…流石は元ボリショイプリマご推薦の演奏家達だけあって、おそロシアな程のダメ出しの嵐やな…けどな、あんまこの上林純を舐めんといてくれ。こちとら、そんなんとっくに昨シーズンのブラームスで経験済やねん!)
現役最後のシーズンでのFS作りで体験した過酷なピアノ生活を思い出すと、純は物騒な笑顔をその口元に張り付かせながら、徐々に自分のピアノと彼らの演奏が擦り合わさって来たのに快感を覚え始める。
そんな純の様子を、ユーリはただポカンと口を開けて見守る事しか出来ずにいたが、いつの間にか隣に立っていたリリアの声で我に返った。
「彼も又、これまでに幾多の地獄をくぐり抜けて来たようね」
「ババア…」
「あのヴィクトルもギオルギーも、そしてユウリ・カツキも皆貴方より長く競技生活を送っている分、それだけの修羅場も味わってきている。確かに貴方は、昨シーズンのGPFで優勝した。でもだからと言って、それだけで彼らを越えたという訳ではないのよ」
「…わーってるよ」
「そして今、貴方の為に全身全霊で取り組んでいる彼に対して、何をすべきかしら?」
リリアの問いに、ユーリは一度唇を引き結んだ後、何かを決意したかのように口を開いた。
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