• テキストサイズ

【YOI】『少年』の最期【男主&ユーリ】

第2章 今までの君と、これからの君。


「ちょ、待って下さい!僕は…」
「ユーリが、貴方のピアノを望んでいる。これ以上の理由があって?確かに、全楽章をこなすには貴方の腕では難しいでしょうが、このスケルツォだけというなら問題ないわ」
慌ててブレードカバーをつけながら、リンクを下りてリリアの背に呼びかける純に、リリアは振り返ると淡々と言葉を返す。
「覚悟を決めなさい。それとも貴方は、ユーリ・プリセツキーのEX作りを、生半可な気持ちで受けていたとでもいうのですか?」
リリアの厳しくも真摯な視線を受けて、純は弾かれたように瞬きを繰り返す。
そして、背後から自分のジャージの裾を摘んで来たユーリの不安と期待が織り交ざったような眼差しに気付くと、一度だけ大きく息を吐いた後で両手で頬を叩き、改めて真っ直ぐリリアに向き直った。
「よう判りました。僕も腹括りますわ」
「当然ね。生まれ変われる人間は強いのよ。それは貴方も承知の筈」
「はい」
かつて、選手生命を左右する大怪我と自分の弱さから全てを投げ出し逃げていたあの頃に比べれば、こんなのは絶望でも何でもない。
美しくないものを認めない彼女がそう言うのならば、少なくとも今の自分には、その義務と資格があるのだろう。
「弦楽メンバーの方が使うてる楽譜を貸して下さい。時間その他を再編集します」
「既にスタジオに用意してあるわ」
「その前に靴を履き替えなさい」と言われ、純とユーリは手早く支度を始めた。
「ごめんな、サユリ。カツ丼とのEXもあってお前本当に忙しそうにしてたから、言い辛くて…」
「却って遠慮される方が迷惑や。でも…そんな風に見せてた僕も悪かった。あと、どっか浮ついて自惚れてたんやな。あのセンセに横っ面叩かれて目ぇ醒めたわ」
そう返す純は、ユーリがこれまで見た事のない表情をしていた。
まるでこれから試合に臨むような精悍な顔つきに、ユーリは純がこの間までは勇利と同期の選手だった事と、自分とは違った修羅場をくぐり抜けてきた人間であるのを思い出す。
「ベテランの選手達が競技の世界に居続けられるのは、それなりの理由と力がある」という純の言葉が、今のユーリには良く理解できた。
「さあ、仕切り直しや。ユリオくんも気合い入れてくれ!」
「おぅ!」
青臭くも頼もしい声を聞いたリリアは、僅かに口元を綻ばせていた。
/ 30ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp