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【YOI】『少年』の最期【男主&ユーリ】

第2章 今までの君と、これからの君。


「中途半端な妥協はお止めなさい、ユーリ・プリセツキー!それは、貴方にも彼にも何の利益をもたらさないわ!」
リンク外から突き刺さるようなリリアの叱咤が、2人の動きを止めた。
「ユリオくん…?」
唇を噛み締めて下を向くユーリに、純は声をかける。
「僕に言いたい事があるんやな?」
「俺…」
言い淀むユーリだったが、純の眼差しに促されると再度口を開いた。
「この音楽だとしっくり来ないんだ。俺、サユリのピアノの方が良い」
「え?」
「貴方がユーリを混乱させているのよ。昨日、貴方はこの子に自分の演奏で楽曲を聴かせていたわね。その時のリズムと音が、彼の中で定着してしまっている」
「!」
リンクサイドまで歩を進めてきたリリアの言葉に、純は自分の迂闊さに顔を顰める。
「なのに、練習に全く違う音源を用いるとは何事ですか。貴方も、引き受けたからには任を全うしなさい。己の不手際でスケーターを振り回すなど、振付師として一番やってはならない事よ!」
「…返す言葉も無いわ。明らかに僕の過失や。ユリオくん、堪忍」
「サユリ…」
イレギュラーの上時間のない焦りから、とにかく本番に用いる音源を作成する前に、ユーリにリズムや曲のイメージを感じて貰おうと自分のピアノを聴かせた事が、裏目に出てしまったようである。
現役最後のシーズンを、全て振付や楽曲編集を自給自足で賄っていた頃の癖で、対象が自分ではない他人である事を純はうっかり失念していたのだ。
「見習い以前に、僕は振付師失格や。なんちゅうアホなミスを…」
「違う!この音源だって、サユリのピアノを聴いてなかったら多分普通に滑れた。だけど俺には…」
すっかり落ち込んでしまった純の傍で、ユーリは気遣わしげに見守っていたが、そこへ更にリリアの声が飛んで来た。
「今の貴方達に、そんな無駄な時間を過ごしている暇はないわよ。さっさと着いてきなさい」
「え?何処へ」
踵を返すリリアの背に、純は顔を上げながら問い掛ける。
「先程、私のバレエ関連の伝手で、オーケストラの若手メンバーにこの五重奏の演奏を依頼しました」
「ああ、それやったら安心ですね」
「何を他人事のように言っているの?貴方がピアノを弾くのよ」
「はぁ!?何やそれ!」
余りの事に純は思わずロシア語も忘れて叫んだ。
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