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【YOI】『少年』の最期【男主&ユーリ】

第2章 今までの君と、これからの君。


施設内のバレエスタジオとピアノ使用の許可を得た純は、ピアノの椅子を2つ並べると左側にユーリを坐らせた。
「ホンマはピアノ五重奏やから、弦楽カルテットが加わるんやけど…このスケルツォは、今のユリオくんに合うてると思う」
一部アレンジを混じえながら、純は鍵盤に指を滑らせていく。
「暇つぶしでええから、僕の左手を見ててくれるか?」
「左手?」
「そう。ピアノは、左側に行くほど音が低くなる。そして、低音は楽曲を支えるベースになっとるから、踊る時のええガイドにもなんねん。特にこのスケルツォは3拍子やから、最初の1拍目が肝や」
純は「僕のピアノは素人に毛が生えた程度」と言っているが、彼の知識もさる事ながらユーリの目と耳には充分なレベルの演奏に思えた。
そうでなければ、昨シーズンのユーロ選手権であのヴィクトルが、彼の伴奏と勇利の歌声が入った曲をEXに使用する事などなかっただろうからだ。
(こいつといいカツ丼といい、ニッポンジンって自己評価低い所あるよな…)
ピアノを弾き続ける自分の姿を、椅子に腰掛けたまま大人しく眺めているユーリに、純は実家で飼っているネコを思い出して吹き出しそうになったが、どうにか堪えるとそのままひと通り演奏を済ませた。
「ユリオくんが嫌じゃなければ、この曲でプログラムを作ろうと思うけど、どうかな?」
「…ああ。贅沢言ってる場合じゃねえし、俺も結構この曲気に入ったから」
「良かった!ホンマは、もうちょっとじっくり作りたいトコやけど…でも、出来る限りの事はするからな」
何処かホッとした顔で自分の両手を握りしめてきた純に、ユーリも頷きながら彼の手を握り返したが、ふと何か思い出したように質問をした。
「あのよ、サユリ。…カツ丼とのプロはいいのか?」
そもそも純がピーテルに訪れた目的は、勇利(と本人曰く「ついでに『デコ』」)のサポートと今シーズン用のEXの振付合わせの為だったからだ。
「勇利とは、僕が日本発つ前から映像やメールである程度確認し合うとるから、心配せんでもええよ」
「でも、」
「僕が大丈夫、て言うてるんや。まずは、自分の事を気にしなさい」

自分への気遣いだけでなく、純が勇利を信頼している故の発言でもあり、それがユーリには少し羨ましく思えた。
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