第2章 始まりは偶然にも
時間はあっという間で
車という足のおかげですぐに、姉の住まいに到着した。
運が良くも悪くも、誰にも遭遇することなく家の中に入れそうだ。
時間帯としては、特段遅いというわけでもなかった。
さすが、紳士の九条さん。送り出す時間も完璧だったというわけで。
「新堂さん、ありがとうございました。」
新「大したことではないとさっきも言っただろう。」
言葉尻は冷たいながらも、車内で私を幾度も気遣ってくれた優しさ。言葉だけではない温かみを感じた。
この人は、こういう物言いをするだけで決して冷たい人ではないと思う。
新「俺は、医者だから車の運転が格段良いわけではないからな。」
本業が車の運転の人の隣に乗ることなんてそうそうありませんよ。タクシー運転手じゃないんだから、と思いつつ
新堂さんなりの気遣いかと思えばこの口調に居心地が悪いとは思わなかった。
九条家内では、桐嶋さんと幾度も口論する場があったようにも見えていたから怖い人かと感じたが実際の所そうではなかったようだ。
「また、九条家に伺う時はよろしくお願い致します。」
今日1日いろんなことがあったにせよ、これも何かの縁だ。
また、九条家に伺う時に新堂さんのことを知っていこう。
新「それじゃあ、俺は帰る。マンションの前とはいえ玄関までは流石にご家族が心配するだろうからここで失礼するぞ。」
「そうですよね、すみません。引き止めてしまって!」
慌てて車から降りると、新堂さんも続けて降りてくれた。
失礼すると言ったようにも聞こえたが気のせいかと思い振り返ろうとすると。
新「さ、まっすぐ帰れ。」
その言葉と共に新堂さんの大きな骨ばった手のひらが私の背中を軽く、マンションの扉へと向かわせた。
その温かい軽い力に押されつつマンションの扉を開けながら
新堂さんへと
「また、会いましょうね!」
新「早く入れ」
そのぶっきらぼうな言葉に、手を軽く振りながらマンション扉から
姉との住まいの扉へと駆け出したのだった。
疲れていたはずが心なしか、足は軽かった。