第2章 愛は囁くな(中原夢)
ーー
腹癒せに「身長私と同じくせに。」と中也の1番のコンプレックスを持ってきてやれば、彼は苛立ったのか席を立った。
私はそれを音だけ確認したら、そっぽを向いて書類に再度目をやる。
足音が私の背後で止まったのと同時に首に腕が回ってきた。彼がやけに煙草臭いのは短時間で数本も吸ったから。
多分私も同じ匂い何だろうな、なんて思いながら彼の存在を無視する。
「....、柊。」
更に抱き着いてきて、首元に髪の毛がかかる。それに少し身をよじれば、彼は可笑しそうに笑った。
「何?」
「いや、
……なぁ、手前はまだ汚くねぇよなぁ?」
「....、」
中也の少しだけ寂しさを込めたような声に、読み終わりそうだった書類は手からこぼれ落ちた。
それはそのままカサリと小さな音を立てて机の上に着地する。
後に訪れた静寂に、ほんの少しだけ淋しさを感じた。
「...汚いかもしれないよ?」
「...いいや、手前はまだ穢れてねェ。」
途端に体を離したかと思いきや、私の椅子をくるりと回して身体同士を向き合う形にさせられる。
何事かと目を瞬きさせると、彼は何も言わずに自分の帽子を取って私に被せてきた。それは私にも丁度いい大きさで、ブカブカでも窮屈でもなかった。
でも、こうして中也が帽子を私に被せたり、しんみりとした雰囲気を漂わせるのはきっと何かあったから。
「...どうしたの。」
「暇つぶしだ、ただの。」
「...、暇つぶし。」
「そうだ。意味なんてねェよ。」
意味がない、なんて言いながらも再度前から私を優しく抱き締める。その表情は何処か曇っていたけれど、私は何も言わずに腕を背中に回した。
多分だけど、突然寂しくなったのだろう。
相棒が居なくなって、かと思いきや敵になってて。そして今にも始まりそうな三社戦争で一体何人死ぬのかなんて想像もつかない。
ーー